2022年6月30日(木)

インドから見た世界のリアル

2022年2月28日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

インドがロシアに依存する3つの事情

 インドがロシアに対して弱みがあるとしたら、以下3つのことが考えられる。

(1)武器の供給元、対パ武器禁輸として重要

 まず、インドにとって武器の供給元としてロシアが重要なことだ。インドは1962年に中国との戦争に負けて以来、ロシアから武器を購入するようになり、70年代~80年代には、その傾向に拍車がかかった。結果、現在使っている武器の60%が旧ソ連製ないしロシア製である。

 武器は、高度で精密なものだが、乱暴に扱う。だからいつも整備して、壊れた部品は交換して使うものだ。交換部品の供給が重要だ。また弾薬も撃つから、弾薬の供給も重要である。ロシア製の武器を配備すれば、ロシアからの修理部品と弾薬の供給に依存するのである。

 しかも、ロシア製の武器は、他の国で代替できない側面がある。ロシアは、インドには他の国が供給してくれない武器を供給してくれるからだ。例えばインドはロシアから、超音速巡航ミサイルの技術の提供を受けており、また、原子力潜水艦のリースも受けてきた。こういった武器は、米国も含め、他の国があまり売りたがらない武器である。だから、インドにとってロシアからの武器購入は貴重なのである。

 さらにロシアはインドに魅力的な約束をしてきた。それは、インドが武器を買ってくれるなら、ロシアはパキスタンに武器を売らない、という約束である。これはパキスタンと戦うことの多いインドにとっては、魅力的なのである。だから、パキスタンの武器は、中国製か、米国製が多い。

(2)パキスタンに対して軍事行動をとる可能性があること

 インドにとってロシアの軍事行動を批判できない2つ目の理由があるとすれば、それは、インドがパキスタンに対して軍事行動を行った際のことを考えてのことだ。

 インドはパキスタンによるテロ支援、いわゆる「千の傷戦略(テロ組織を支援して、たくさんの小さな傷をつけて大国を弱らす戦略)」に悩んできた。そして、パキスタンが支援するテロ組織が、インドでテロ攻撃を行った際に、パキスタンを攻撃する計画を考えている。

 実際、2016年にテロがあった際は、即反応し、カシミール地方のパキスタンが管理している地域にあるテロ組織の拠点を、特殊部隊で襲撃した。脅威を感じたパキスタンは、テロ組織の拠点を、より奥地のパキスタン国内に移した。しかし19年、再び起きたテロ事件に際し、インドは、パキスタン国内にあるテロ組織の拠点を空爆した。

 もしパキスタンがこのような政策を継続するなら、インドはより大きな軍事作戦も考えている。「ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情」を書いた際は、いわゆる「コールド・スタート・ドクトリン」と、海上封鎖について紹介した。

 パキスタンに対して大きな軍事行動を行う際、インドが必要としていることの一つは、軍事作戦実施のための時間である。特に、国連安保理において、インドに、軍事行動の自制を促す決議がでると、インドとしても動き難くなる。しかし、もしインドに味方する国連常任理事国が拒否権を行使してくれれば、決議が採択されない。

 そして過去に、インドのために拒否権を行使してくれた国がある。それがソ連であった。1971年の第3次印パ戦争の時、ソ連は、インドの軍事行動をやめさせようとする決議に、拒否権を行使し続けたのである。

 つまり、インドが、今後、パキスタンを攻撃する際に、拒否権を行使してくれそうな国がいるとすれば、ロシアの可能性が最も高く、インドにとって重要なのである。

(3)ロシアとの強い人的なつながり

 さらに、3点目として、インドには、まだロシアの強い人的つながりが残存していると考えられる。

 これは冷戦時代に起因するのであるが、冷戦時代、インドは、政治体制は自由民主主義であったが、経済体制は社会主義であった。これは、ソ連がインドに対して影響力を高める最適な組み合わせであった。

 まず、社会主義体制下で生産されるインド製品は品質が悪く、国際競争力はない。しかし、ソ連は、そのようなインド製品を、武器やお金にかえてくれ、インド企業にはお金が入った。インドは自由民主主義の国なので、選挙を行う。選挙をするにはお金がかかる。インドの政党は、企業からの寄付金を集めて選挙を戦うのである。

 結果、インドの政党は、ソ連が支払った資金で、選挙を戦って、政府を構成していたのである。ソ連はインド政治に強い影響力をもっていた。

 冷戦が終わり、ソ連が崩壊すると、インド経済は崩壊の危機に入り、社会主義の経済から資本主義経済へと改革が進められた。そのため、今、インドの選挙は、ロシアの強い影響下にあるわけではない。しかし、冷戦時代の歴史的経緯を経てつくられた、人的なつながりは、存在する。

 インドでは、年配の政治家や専門家が、ロシア寄りの傾向を示すことが多い。世代交代が進むまで、インド政治では、ロシアが一定の政治的影響力をもっていると推測されるのである。

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