本編は、この論考だけ読んでもわかるのであるが、2月21日に公表した「ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情」と併せて読んでいただけると、よりわかりやすい、増補アップデート版である。2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始したため、筆者はそれにまつわる、インドのロシアに対する姿勢を分析した。
インドのロシアに対する姿勢は、ロシアの侵攻に対する国連安全保障理事会(安保理)の場において明らかになった。国連安保理では、ロシアを批判し、ロシア軍の即時撤退を求める決議の採決を行った。15カ国中、11カ国が賛成し、反対したのはロシア1国であったから、ロシアが国際的に孤立したのは明らかであった。しかし、ロシアの侵略を批判する決議に対し、3カ国が棄権したのである。中国、アラブ首長国連邦(UAE)、そしてインドであった。
中国やUAEが棄権した理由は推測し易いことだ。中国はロシアを支援しつつ、一方で、露骨な支援を見せることは避けた可能性がある。UAEのようなアラブ諸国は、米国による軍事攻撃に対する反感から距離をとったのかもしれない。
実際には米国が軍事攻撃する場合は、国連決議を経ているから、国際ルールを尊重したプロセスを踏んでいる。一方、ロシアの攻撃は一国だけで決断した点で、国際ルールに明確に挑戦したものである。だから、米国の場合とロシアの場合は、区別して判断すべきものといえる。それでも、UAEは納得できなかったのだろう。
問題はインドである。インドはなぜ棄権したのであろうか。ここでは3つに分けて考える。①インドがロシアの軍事行動にどのような態度を示してきたのか、②その背景にある事情、③その態度は、今後も続くものなのか――。
インドがロシアのウクライナ侵攻に際して示してきた姿勢
インドの姿勢は、ロシアとウクライナは問題を対話で解決すべき、というものである。これはインドのスブラマニアム・ジャイシャンカル外相(直接関係はないが、妻は日本人で、息子は米国人と結婚している「生ける日米印」一家である)や、ラジャラン・シン国防相が繰り返し表明している姿勢である。
また、インドは、中国に対しては、一国の判断で力による現状変更すべきではない、と、繰り返し表明してきた。中国がインドに対して、侵入事件を起こしていることに対して、強く批判するものである。
しかし、この姿勢からすると、ロシアがウクライナへ侵攻した際は、「一国の判断で力による現状変更」をしているのだから、インドはロシアを批判すべきである。なぜしないのだろうか。インドはロシアに弱みでもあるのだろうか。