2月下旬、台湾で偽情報対策を担っているNPO「台湾ファクトチェックセンター」が福島食品をめぐる偽情報を含んだ動画に対する検証結果を発表している。
それによれば、台湾で輸入解禁が議論されていた2月上旬、この動画が台湾のネット上で転載を繰り返され、拡散された。動画は3分ほどの長さで、中国語を話す女性ユーチューバーが福島を現地訪問して、福島産の食品が4割引の格安で売られていることなどを取り上げ、「日本人でも福島の食品は食べたくない。産地表示は見えないほど小さく書かれている。格安でも売れていない」と批判していた。
私も動画を探し出して視聴してみたが、動画の中で、女性は「日本の福島の復興大使の大塚範一は番組の中で福島産食品を食べたところ、白血病を患って日本社会を震撼させた」などと語っていた。大塚範一アナウンサーは元NHKアナウンサーで、フジテレビの朝番組で人気を集めていた人物で、確かに急性リンパ白血病を患ってテレビの現場から姿を消している。だが、発病が公表されたのは11年11月。同年3月の福島原発事故との関係はあり得ず、復興大使といった任についていたこともない。
また、割引も通常のスーパーの食料品売り場でも行われている期限切れ直前の商品を安く販売しているだけで、「日本人も買わない」と論じることはあまりに一方的だった。
台湾ファクトチェックセンターは、こうした内容について検証を行ったところ、食品の表示についても日本の法律に従ったもので、大塚氏の白血病の罹患と原発事故の関連性も可能性が低いとして、この動画は「間違った情報である」との結論を出している。
中国人女性の動画の不自然さ
動画の主の女性は日本在住の中国人ユーチューバーだった。普段は化粧品などの日常的な生活情報を発信している。こうした福島の食品を批判的に取り上げる内容は普段の発信からは大きく異なっており、なぜこの時期にあえて福島産の食品を取り上げるのか、不自然さは否めない。
さらに、この動画は自身のYouTubeのプラットフォームではなく、中国のSNS「ウェイボー」のアカウントで発信されていた。再生回数は277万回に達しており、かなり広く視聴されたようだ。ところが、この女性のウェイボーのアカウントは、この動画を発信した後、拡散が一段落したタイミングで閉鎖されたようだった。この動画は21年11月に配信されている。これは、台湾で輸入規制の解禁が議論になり始めた時期と一致している。
現在、台湾では、民進党政権を敵視する中国からの偽情報などを駆使した世論への揺さぶりに警戒を強めている。
台湾では、大手の新聞・テレビに対する民間の信頼度がそこまで高くない反面、大型掲示板PTTやLINEのコミュニティーなど、ネット領域における情報拡散が日本からは想像つかないぐらい活発に行われており、世論形成に一定の影響力を持っている。
中国は、そうしたコミュニティーに対し、台湾人を装ったアカウントから民進党政権にとって不利な情報を流し、ネット上で騒ぎになったところで、台湾の親中派メディアや国民党系の親中政治家が問題を取り上げることで、世論を揺さぶるというマッチポンプ的な情報工作に力を入れているとされる。