2024年11月21日(木)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2022年3月4日

“クレバー”なプーチンに何が起きたのか?

 ここでいったんロシアのことに触れておきたい。今回のウクライナ侵攻に接して最初に思ったのが「あの冷静で、クレバーなプーチンがなぜ?」というものだった。強いロシアを取り戻したいといった願望があったとしても、それと現実とのバランスをとることができる人物だと見ていたし、ソ連崩壊後のロシア社会を収拾し、20年にわたって権力を維持することは並大抵のことではない。

 そんなプーチンがなぜ、無謀とも言える行動に出たのか。私が想像するに、理由の一つとして加齢があるのではないかと思う。私自身、齢70を超えたが、同世代のロシア人の友人たちのうち、少なくない人が50代で亡くなった。ロシア人男性の平均寿命は67歳(日本男性は81歳)。69歳のプーチンには、何か思うところがあるのではないか。あるいは、見た目には健康であっても、身体のどこかに不安があるのかもしれない。こうしたことから、早く何かしらの「レガシー」を作らなければという焦りがあったのかもしれない。だから弱気な姿を見せるのは沽券にかかわると思っているのだろうか?

 また、この数年、2018年に年金の受給年齢を5歳引き下げたことなどもあって、支持率が低下傾向にあったということも影響しているのかもしれない。権力基盤を維持するためには、強気の策に打ってでなければならないという背景もあったのかもしれない。私の知るロシアの人々は、「男らしさ」「強さ」といったものを好む傾向がある。

「SWIFT」排除の影響と、ロシアのレアメタル

 SWIFT(国際銀行間金融通信協会)から排除されたことは、プーチンにとってはある程度織り込み済みだったのではないかと思うが、キエフをもっと早く制圧できなかったことは誤算だったと言えるだろう。私自身、SWIFTでは厄介な経験をしたことがある。イランが12年にSWIFTから排除されたことで送金ができなくなってしまった。当時、イランからモリブデンを購入していたが、その代金を支払うことができなくなってしまった。

 米ドルからカナダドルに換えて送金しようとしてみたり、中国に仲介を依頼したりなど、策を弄したが、上手く行かなかった。そこで、最後の手段としてアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに飛んだ。イランの対岸にあるドバイには、色々なパイプがある。現地の金融機関を訪ね歩いた結果、仲介者を経由して送金してくれる所を発見した。

 このようにスイフトから排除されると、送金が全くできなくなってしまうわけではないのだが、非常に手間がかかってしまう。この辺りが、中長期的に見ると大きな影響となってくる。

 一方、ロシアには武器がある。まずはドイツをはじめとした欧州向けの天然ガスだ。何と言っても資源を抑えているから西側が金融危機をSWIFTで演出しても長続きはできないだろう。ロシアはパイプラインを止めるだけで良いからだ。アメリカがシェールガスの増産をチラつかせるが、これにも時間がかかる。

 もう一つのアキレス腱がレアメタルである。チタンなどの資源量を非常に多く持つが、足元で注目すべきは、「パラジウム」だ。世界の4割をロシアが持つ。これは、身近なところでは、歯の銀歯の材料として使用される。しかし、昨今では、銀歯からセラミックへの転換が進んでいるのでそんなに大きな影響はないだろう。影響が大きいのが、自動車の排ガス浄化触媒に使用される場面だ。環境問題では不可欠とされる素材だけに、パラジウムの価格が上昇基調にあることが気になるところだ。

 貴金属や希少金属、希土類さらに希少ガスなど産業のビタミンが世界に及ぼす影響は見えないだけに厄介な代物である。


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