覚悟があれば敵を恐れることはないというのは正しいかもしれないが、そのための犠牲は大きい。また、ロシアがドイツ並みの経済力を持つというのは人口が大きいからである。
それはすなわち、1人当たりで考えれば貧しいということである。生活水準を表す一人当たり購買力平価GDPは図4のようになる。
20年の一人当たり購買力平価GDPは、ロシアは2.8万ドル、ドイツは5.5万ドル、フランスは4.6万ドル、イタリアは4.1万ドルであり、ロシアはこれらの国の2分の1から7割の水準でしかない。貧しい中で過大な軍備を保有し、なおさら貧しくなっている。
1990年代初め、ロシアもウクライナもポーランドも同じように貧しい国だった。しかし西欧に向いたポーランドは発展し、現在1人当たり購買力平価GDPは3.4万ドルとなって先進国の水準に到達した。ウクライナは1.3万ドルである。西に向くことは自由と民主主義の国になることと同時に、豊かな国になることでもある。
それで何が得られるのだろうか
ロシアのような強権国家は、自国の数倍の経済力の国を脅し、自分の欲しいものを得ることはできる。しかし、ウクライナが降伏し、ロシアのものになるとして、それでロシアは何を得られるのだろうか。
恐怖と敵意にみちたウクライナ人、破壊された都市、不発弾があるかもしれない肥沃な土地しか得られない。ロシアと国境を接する国々も恐怖と敵意を持ち、軍備と相互の軍事同盟関係を強化するだろう。
ドイツ、フランスなども、ウクライナへの軍事援助をためらったことを後悔しているだろう。ロシアへの経済制裁は続き、海外投資は来なくなる。石油と天然ガスは中国に買いたたかれ、ハイテク製品は中国に高値で買わされる。現在も貧しいロシアは永久に貧しいままの国となる。
17世紀末、ピョートル大帝が夢見た近代化されたロシアは、皇帝プーチンの下では永遠に果たせない夢となる。