2022年7月3日(日)

経済の常識 VS 政策の非常識

2022年3月12日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

為替レートは軍事力を表さない

 ロシアは、この小さな経済力ですべての西側諸国を敵に回した。もちろん、貧しくても軍事力で圧倒することはある程度は可能である。

 図2は主要国の軍事費を見たものである。しかし、軍事費で見ても米国が圧倒的で7800憶ドル、ロシアは620憶ドルで米国の12.5分の1にすぎない。ロシアにとって、GDPで見たときより多少はマシになるが、それでも圧倒的に劣勢であることは変わらない。

 ドイツ、フランス、イタリア、英国の軍事費を合計すると1940億ドルであるから、米国を入れなくてもロシアの3倍以上となる。なぜロシアはこれほど強気なのだろうか。

 これまで述べた数字は、為替レートで換算した各国のドルの値を示したものだが、為替レート換算の数字は必ずしも本当の軍事力を表さないということがある。軍事力は軍装備の質×兵の数となる(もちろん、作戦の質や士気も重要だが、これについては議論しない)。

 軍装備のような財は自由に輸出入できるものだから、その価格は全世界であまり変わらないはずである。一方、兵士のコストはその国の一般的な賃金で決まる。賃金が安い国なら兵士のコストは安くつく。だから、所得の低い国の軍事力は為替レートで換算した軍事費より高いはずである。

 そう考えると、軍事力を支える経済力は所得の低い国では賃金で決まるサービス価格が安いことを考慮した購買力平価で見るべきだということになる。購買力平価で評価した各国GDPは図3のようになる。

 これを見ると、ロシアのGDPは米国の5分の1,ドイツの9割、フランス、ドイツ、イタリア、英国合計の3分の1となる。米国が前面に出て来なくて、逡巡するヨーロッパが相手なら、経済力が3倍でも恐れることはないと思ったかもしれない。

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