2022年12月8日(木)

インドから見た世界のリアル

2022年3月19日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

 今回のロシアのウクライナ侵略の結果、ロシアが経済制裁を受けてつぶれてしまったらどうなるか。インドは米国としか交渉できなくなる。自然と交渉は米国主導になる。そうならないためには、インドにはロシアが必要だ、という考え方になる。ロシアがピンチになれば、インドは助けようとするのである。

 さらに、インドで心配しているのは、ロシアに対する中国の影響力の拡大だ。もし西側諸国のロシアに対する経済制裁が強すぎると、ロシアは誰かに助けてもらわなければつぶれてしまう。当然、中国がロシアを助ける可能性が高い。

 すでにロシア産のエネルギー資源や、農作物の輸入を増やす傾向にあるし、軍事物資も提供するかもしれない。しかし、これはインドにとっては懸念事項だ。

 インドは中国と国境を接している。そして、その国境で、断続的に中国と戦い続けてきた。インドにとって中国は一貫した脅威である。

 そもそも、インドがソ連との協力を深めたのも、中国に対抗するために、その反対側にいる国と協力関係を深めたかったからである。だから、ロシアが中国に依存した国になってしまうと、インドは困る。もし中国がロシアを助けるなら、インドもロシアを助け、ロシアにおける中国の影響力を一定程度緩和したいと考えやすい。

今後も変わらないのか

 以上から、インドにとってロシアのウクライナ侵略は、インドとは直接関係ない紛争であるから、取れるだけの利益は得たいし、西側諸国に同調する気もないし、ロシアを生き残らせたい動機もある。だから、ロシアがいい条件でインドに原油の輸入などの提案をもってくると、歓迎するのである。

 問題は、今後だ。インドはこのままこの政策を続けていくのだろうか。もし続けていくとしたら、米国との同盟関係を重視する日本の立場と相入れないのではないのではないか、と心配になる。

 ただ、こうしたインドの政策は、結局は失敗する可能性が高まっている。その議論は、インド人の専門家の間でも、指摘されるようになっている。

 典型的なものは、3月16日にインドで2番目に発行部数の多い新聞ヒンディスタン・タイムズにでたハーシュ・パント博士の論考「インドはロシア政府との関係を見直すべきである」である。この論考では、インドは、中国に対抗するためのロシア、といった考え方に基づいて、ロシアを支援したがっていることについて、時代に合わないことを指摘している。今起きていることは、ロシアと中国がどんどん接近してしまい、インドにとってロシアは、対中国という観点から、ぜんぜん助けにならないことである。助けになるのは、ロシアよりも、日米豪印のクアッド(QUAD)ではないか、という指摘である。

 こうした指摘は、インドでもソ連時代を経験していない若い世代ほど強い。実際、8年前の2014年時点ですら、インドの変化は見え始めていた。

 その年、ピュー・リサーチ・センターが行った調査で、インド人に、どこの国と同盟を組みたいか聞いたところ、約半数のインド人は米国と答え、ロシアと答えた29%よりも、米国の方が多かったのである。ちなみに26%のインド人は日本と答え第3位となった。ここからみて、インドは確実に変化している。ただその歩みはゆっくりだ。

 日本としては、インドにおけるロシアの影響力を一つひとつ削っていくことが求められるだろう。3月19~20日に岸田文雄首相の訪印があった。そして、今年、東京で行われる日米印豪QUAD首脳会談を控えている。日本の手腕が問われる場になる。注目である。

 
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