2022年12月4日(日)

インドから見た世界のリアル

2022年3月19日

»著者プロフィール
著者
閉じる

長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

 その原因になったものは、そもそもインドを植民地支配していたのが英国、つまり西側諸国の有力国の一つだからだ。インドは英国に騙されてきたと思っており、常に西側諸国を疑う。

 こうした考えは、西側諸国が主導する国際的なルールに対する不信感に直結する。例えば、ロシアのウクライナ侵略が問題なのは、「力による一方的な現状変更」だから、と西側諸国は(日本も)主張する。

 ロシアの行為を認めれば、ロシアだけでなく、中国も、同じような論理を使って台湾を攻撃するかもしれない。世界はルールが守られない雰囲気になっていって、多くの戦争が起きるようになる。だから、そのような雰囲気にしないために、ロシアのウクライナ侵略を許すべきではない。こうした論理が西側諸国では、述べられている。しかし、インドはその考え方に同調しない。

 インドから見ると、米国のイラク戦争(2003年)も、「力による一方的な現状変更」ではないのか、という。そもそも、英国もフランスも、さまざまな武力行使を行ってきたが、それらは「力による一方的な現状変更」に該当するのではないか、と考えている。

 実際には、米国をはじめ西側諸国の場合は、武力行使をする前に国連安全保障理事会で、なぜ軍事行動が必要なのか、説明を行い、決議を得てから、軍事行動に移っている。だから、「一方的」に決めているのではなく、一応、国際機関での説明プロセスを事前に経ている。しかし、インドから見ると、国連安保理は、西側諸国が主に主導しており、西側諸国に有利な決議が出る機関である。

 そのようなところで決議を得たからと言って、「力による現状変更」を認めるべきだろうか、といった議論展開をする。米国のイラク戦争は認められて、ロシアのウクライナ侵略は認められないというのは、西側諸国が単にロシアを嫌いなだけであって、インドはそれに付き合う必要はない、と考えるのである。

 さらに、米国の対印政策もまた、インドの西側諸国に対する不信感を高めてきた。日本から見れば、過去70年、米国は一貫して日本の同盟国であった。しかし、インドから見れば、米国の政策は一貫していなかった。

 インドが独立した1947年の時点では、米国の対印政策は友好的なものであった。62年にインドが中国と戦争になり負けた時、米国はインドを支援した。しかし、歯車が狂い始めたのはその3年後だ。

 65年に第二次印パ戦争が起きた時、米国は印パ両方に対し、武器禁輸を行った。そして、71年の第三次印パ戦争前後に、米国は中国とパキスタンと関係を深めていった。逆にインドはソ連と同盟関係になっていったのである。

 インドから見ると米国は、インドに友好的な時期もあるが、時には中国やパキスタンと仲良くしたりする一貫性のない国である。一方、ソ連は、一貫してインドの味方だったのである。だから、インドから見ると、西側諸国よりは、ロシアの方が、一貫した外交を採用しているように思っている。

ロシアを生き残らせたいインド

 さらに、インドは、ロシアを生き残らせたい理由を持っている。それは、インドが駆け引きを重んじる社会に生きているからである。

 インドでは、三輪タクシー(オートリキシャ―)に乗る際には、値段交渉して乗る。値段交渉だから、交渉次第で値段は変わる。そこで、乗りたい人は、複数の運転手と交渉して、いい条件のタクシーに乗るのが一つの方法である。

 これを外交交渉に当てはめると、こうなる。もし、インドが米国からいい条件をとりたかったら、米国とロシアを競わせ、どちらかいい条件の方から買うのがいい。つまり、インドには、米国とロシア両方必要なのである。

新着記事

»もっと見る