2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2013年3月11日

進まない大規模化

 前南相馬市長で、震災後、複合型大規模農場経営研究会を立ち上げ、農業復興を通じた沿岸部の生活再建を目指している渡辺一成さんはこう言う。

 「もともとこの地域の農家は高齢化が進んでいた。いずれ耕作放棄地が増えることはわかっていたが、今回の震災でそれが早まったと言える。この地に残って農業をやろうとする人が、これまでの例えば3倍手がけてくれないと、土地は遊んでしまうだろう。大規模化がますます必要だ。

 ただ、農作物をつくっても売れるかどうかに地域の農家は大きな不安を抱いている。風評被害はまだまだ残るだろう。農地の整備にもかなりの時間がかかる。だから、施設園芸や、複合型農業、太陽光発電など、さまざまな産業を組み合わせていく必要がある。

 そのためには農地規制を柔軟にし、企業参入のハードルを下げるなど、農政のあり方を抜本的に変える必要がある。復興庁はこれまでのような調整機関の位置づけではなく、復興のための権限と予算を集約した組織に強化し、縦割りを排して被災地の実情にあった施策を素早く実行してほしい」

 高齢化への対応、大規模化による採算性向上、6次産業化といった課題は、被災地に特有のものではなく、日本の農業全体に共通するテーマである。

 旧態依然とした規制や制度が維持され、既得権も複雑なため、これまで農業改革は進まなかった。震災の被害はあまりに大きいが、まがりなりにも特区や規制緩和、ワンストップ行政としての復興庁など仕組みは整えられつつある。震災を機に、新しい農業に飛躍する改革の端緒とするという観点が重要ではないか。

 とくに大規模化、集約化は、日本の農業にとって最大のハードルだった。震災で離農する人が増えているのなら、それを逆手にとって、大規模化をスムーズに進めることもできそうである。

復興の難しさを語る八津尾初夫さん

 しかし現実はそのように進んでいない。壁になっているのが、被災地の住民合意形成の難しさと、放射能問題だ。

 原町区萱浜(かいばま)の八津尾初夫さん(63)。萱浜は住宅のほとんどが流された被害の大きかった集落だ。八津尾さんも夫人のほか、右腕にしていた従業員2人を喪った。集落の専業農家は4人いたが、残ったのは八津尾さんだけ。とりまとめ役の行政区長も犠牲になった。


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