2022年12月6日(火)

ザ・ジャパニーズ3.0(昭和、平成、令和) ~今の日本人に必要なアップデート~

2022年5月11日

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桂木麻也 (かつらぎ・まや)

インベストメントバンカー

カリフォルニア大学卒業・内外の投資銀行に20年超の勤務経験を有する。クロスボーダーのM&Aに造詣が深い。著書に『ASEAN企業地図』(翔泳社)、『「選択肢」を持って「人生を経営」する』(ウェッジ)。

50年後には、社会保障の状況はもっと悪化している

 さてここで、松井証券が行なった金融教育に関するアンケートをご紹介しよう。高校生が金融を学びはじめることを機に、その前年の2021年に行なったものだ。これを見ると、多くの人がお金や金融(以下、総称して「マネー」と呼ぶ)に関する知識がないと感じており、またそれらについて相談しようにもその相手がいないという状況が見えてくる。

金融教育に関する実態調査:松井証券2021年 https://release.nikkei.co.jp/attach/620897/01_202111021458.pdf 写真を拡大

 100年人生の老後資金に2000万円が必要と言われ、一方で年金の受給は75歳開始が議論されるなど、将来のキャッシュフローを安定させるには、給与所得からの預金だけでは不十分である。私はこのコラムの記念すべき第1回に、日本人はお金についてもっと学ぶべきだということを書いた(『「お金の教育」の本質とは何か?』)。

 その当時、このアンケートの存在は知らなかったのであるが、マネーリテラシーの向上は世の中的にも求められているものだと得心した。今の高校生がリタイアする50年後には、社会保障の状況はもっと悪化していると想定され、否応なくリスク資産と向き合う時代となるであろう。その意味で、今のうちから投資商品にまで知見を広めようと目論んだ今回の改訂は、若い世代のマネーリテラシーの向上に対して意義深い。

 惜しむらくは、これが家庭科という副教科で教えられることだ。当然、受験には出ないし、よって学びのプライオリティはどうしても下がる。加えて高校生は、自らの稼ぎがあるわけでもなく、実際に投資をして利益・損失のいずれも経験することはない。

 マネーに関する授業というものが「我が事」にならず、遠い国で起こっている戦争を語るような状況にはなってほしくないものだ。一方、先のアンケートでも明らかなように、親世代はマネーに関して非常に高い問題意識を持っている。生きていくために非常に重要なテーマだとして、親が主導しつつ、子供と一緒に学んでいくことが大切なのだと思う。

 先に金融業界で話題になったと書いたが、気の早い一部の証券会社が、この教科書改変によって株式や債権の未来の投資家が誕生すると期待してさまざまなキャンペーンを売ったり、セミナーを開催したりしているのである。ある証券会社は色々な高校にキャラバン隊を派遣して、投資に関する出張授業を行っている。その様子が紹介された新聞記事を読んだが、講師が「米国のウォルト・ディズニーの株を30年前に買っていたら、今は何倍になっているでしょう」と尋ねている。そして「なんと119倍です」という答えを聞いて、高校生の目が輝いたというシーンが記載されている。

 しかしこれでは、バブル期に「必ず値上がりしますから」と言って株や不動産をすすめた当時のセールスマンと変わりはない。30年前に買った某電力会社の株価が、原発事故を起こした後にどうなったのか、30年前にナショナルフラッグだった某航空会社が、後に経営破綻して上場廃止になった際、株主の取り分はどうなってしまったのか等々、投資のアップサイド・ダウンサイド両面を教えてこそ金融リテラシーの向上なのである。

 つまりリターンを得るためには、必ずリスクを取らねばならないこと。リスクは一定の確率で顕在化するため、その際は損失に向き合わねばならないこと。損失の最小化のために、リスクを適正にマネージする必要があること等、リターンとリスクのセットでの教育こそがマネーリテラシーの根幹なのである。

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