2022年11月29日(火)

21世紀の安全保障論

2022年5月13日

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中林啓修 (なかばやし・ひろのぶ)

国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授

国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授
2000年立命館大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。沖縄県知事公室地域安全政策課主任研究員、ひょうご震災記念21世紀研究機構 人と防災未来センター主任研究員などを経て、20年4月から現職。

逃げたくても逃げられない人たち

「取り残されやすい人の優先避難」とは、自力での移動が困難な人や移動そのものが生命のリスクになる人の安全な避難を優先的に行うことである。ウクライナ侵攻において、ロシア側の攻勢に直接晒されている地域に残留する住民の中には持病を抱えた高齢者や病院の入院患者らが少なくない。

 現在の国際人道法では、文民と軍隊とを分離し、適切に文民保護を行う「軍民分離の原則」は、多分に努力目標的な性格はあるにせよ、紛争当事国の重要な責務となっている。そのため、民間人を直接標的にしたり、彼らの生存に必要なライフライン施設を攻撃したりすることは禁止されているものの、現実には心理的ストレスを含めたさまざまな危険や支障が発生している。そうした中で、状況の悪化に応じて自主的に避難できる人は限られており、結果的に、周囲のサポートが必要な人たちが取り残されていくことになる。

 実はこれは災害時の課題として日本社会が直面している課題でもある。東日本大震災では、主要被災地となった岩手県、宮城県、福島県で障碍者の死亡率が健常者よりも有意に高いという研究結果がある。また、福島第一原子力発電所近傍にあった精神科医院の入院患者が、原発事故に伴う避難の途上で多数亡くなった事例は、自力での移動が困難な人や移動そのものが生命のリスクになる人の安全な避難の困難さを改めて突きつけることとなった。

 沖縄県について言えば、自力で移動が困難であったり、移動そのものが生命のリスクになったりする可能性が高いと考えられる要介護度3から5の人が、全県で2万7360人、先島地域に限れば2240人所在している(2022年4月1日現在)。実際には難病をかかえる若年者ら、要介護の認定を受けていない人でも上の条件に当てはまる人はおり、それ以上の人数になる可能性が高い。

 こうした人たちは移動に伴うリスクのあり方もさまざまであり、一律に航空機等に乗せて避難させるわけにはいかない。その人の持つリスクを見極めながら個別に避難の方法を検討する必要があり、当然、相応の時間やリソースを要する事になる。災害対策の分野で、こうした人たちを含む避難行動要支援者を対象とした個別避難計画の作成が21年5月の災害対策基本法改正によって市町村の努力義務となったことも、こうした人たちを緊急に避難させることの困難さを傍証している。

いかに「避難」のメッセージを出すか

 こうした困難があるからこそ、「避難をめぐる意思決定の迅速化」すなわち、「早期の住民避難を計画し決断すること」が重要になる。この決断は政府の判断にかかっている。なぜなら、国民保護措置としての避難の実施は、政府による指示を受けて、国と都道府県および市町村が法律で指定された交通事業者などの協力も得ながら行うことになっているからである。

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