2022年11月29日(火)

21世紀の安全保障論

2022年5月13日

»著者プロフィール
著者
閉じる

中林啓修 (なかばやし・ひろのぶ)

国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授

国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授
2000年立命館大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。沖縄県知事公室地域安全政策課主任研究員、ひょうご震災記念21世紀研究機構 人と防災未来センター主任研究員などを経て、20年4月から現職。

 報道等によれば、ウクライナ政府はロシア側に攻撃の口実を与えることを嫌ってか、2月24日の侵攻開始以前には住民避難について必ずしも積極的ではなかったように見える。キーウ市では、21年12月には市内の避難所を公表するなどしていたようだが、これもあくまで市民が市内に留まることが前提の措置であり、住民を地域から退去させるような措置ではなかった。

 22日には、ウクライナ政府は緊急の国家安全保障会議を開催し、住民避難への優先的な対応が決定されているが、これもあくまで東部地域から西部地域への避難であり、ロシアとの国境地域全体や侵攻目標となりやすい首都等からの避難ではなかった。

 結果的に、侵攻前に住民らの大規模な避難を決断するタイミングはいくつか存在していたように見える。例えば、多くの西側外国公館がキーウを退去した2月11日(侵攻の約2週間前)や、親ロシア派が自身の実効支配地域から女性や子どもをロシアに「避難」させ始めた18日(同約1週間前)などである。

 しかし、一度大規模な避難を打ち出せば、国民の不安を高め、かつ相手側からも侵攻準備(避難させた地域を軍事的に活用する意図がある)と誤解される恐れがあり、躊躇せざるを得ない面があることは否定できない。実際、侵攻前から積極的に「住民避難」を進めたのはロシア側(正確には親ロシア派が実効支配を行なっている地域)であり、侵攻後に包囲下にある民間人の避難経路を一方的に設定するなど、住民避難を軍事的に利用している。

 早期避難の実現には、住民避難の必要性を国民に説明するのと同時に、これを相手国の軍事攻撃の口実とさせないために(相手国を含めた)国際社会にも説明することが求められる。そのためには、住民避難だけでなく、政府が軍事的な対応を含めた各種措置について透明性の高いメッセージの発信手法や内容を磨いておく必要がある。

変わりつつある国民保護の訓練

 国民保護をめぐっては、21年度から国主導の訓練が大きく改善され、複数県にまたがった広域避難のための具体的な手続きの進め方などについて経験の蓄積が始まっている。九州・沖縄地域では、これに先行する形で、陸上自衛隊西部方面総幹部が主催者となり九州・沖縄各県に政府関係機関や指定公共機関が参加して、武力攻撃事態を想定した大規模・広域での避難をめぐる検討会が16年以降行われてきた。

 筆者はこれらの訓練や検討会にさまざまな形で関わっており、これまで挙げた避難の課題なども繰り返し議論してきた。関係者らの真摯な努力により、広域避難で不可欠になる関係機関同士での連携要領や、避難実施を計画する際の前提となる基礎情報(例えば、輸送力や対象者数、避難先で収容可能な住家戸数の把握など)の整理が進んできている。そうした中でも、上に挙げたような課題はまだまだ検討途上にある内容である。

 今回のウクライナ侵攻においてロシアの攻勢下におかれた市民たちの犠牲や直面している窮状を見れば、地域住民らをそのような状況に追いやるようなことがないよう国民保護についても、一つ一つの課題にしっかり向き合い、改善に向けた不断の努力を続けていく必要がある。

新着記事

»もっと見る