2024年7月16日(火)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年5月15日

保守とリベラル、それぞれから出る米国でのツイッター批判

 世界規模のDPFを多く生み出し、こうした規制とは無縁だった米国でもDPF規制の機運が高まりつつある。その1つが、冒頭のマスク氏のツイッター買収にも関係する通信品位法230条の見直しだ。

 「双方向コンピューター・サービスの提供者もしくは利用者は、その他の情報コンテンツ提供者によって提供されたいかなる情報の発行者または発言者とは扱われないものとする(No provider or user of an interactive computer service shall be treated as the publisher or speaker of any information provided by another information content provider.)」

 この一文はインターネット黎明期の1996年に制定された通信品位法第230条Cに規定されるもので、「インターネットを創造した26ワード」とも呼ばれる。この条項は、ツイッターなどがそのプラットフォーム上で流れる情報(コンテンツ)について直接的責任を負わない「免責条項」とされる。一般的には、この免責条項があったからこそ、米国のインターネットサービス提供者はプラットフォーム上のコンテンツに関する責任・負担を負うことなく、インターネット産業は発展したと考えられている。

 近年、特に偽情報が問題となった2016年米国大統領選挙以降、通信品位法230条は米国共和党・民主党の双方から異なる理由で批判されてきた。その批判が頂点に達したのは21年1月のトランプ前大統領のTwitterアカウント永久凍結だ。一企業が大統領の発信を制限するという大きな衝撃をもたらした。

 共和党・保守系は、DPFがオンライン上のコンテンツを過度に、特に保守系のコンテンツを偏向的に削除しているという。他方、民主党・リベラル系は、DPFがオンライン上のヘイトスピーチ、偽情報などの有害コンテンツを放置しているという。いずれも結論は通信品位法230条の改正が必要というものだが、保守系は「偏向して規制し過ぎ」、リベラル系は「放置し過ぎ」という理由だ。マスク氏はこれまで保守系の立場にたってDPFを非難してきた。

 トランプ前大統領は、大統領令13925号 「オンライン検閲の防止(Preventing Online Censorship)」(20年5月28日署名)で連邦通信委員会(FCC)に通信品位法230条の解釈見直しと規則制定を求めたが、バイデン大統領はこれを無効にした。この他にも米国議会には、DPFの透明性・説明責任を高めるPACT法案(Platform Accountability and Consumer Transparency Act 、20年6月提出)や、DPFの免責範囲を「情報」全般ではなく「言論」のみに限定するSAFE TECH法案(Safeguarding Against Fraud, Exploitation, Threats, Extremism, and Consumer Harms Act 、21年2月)などが提案されている。

 共和党・民主党のいずれも通信品位法230条の見直し自体には賛成だが、見直しはアメリカ合衆国憲法の根幹であり、修正第1条で規定される「表現の自由」にも関係するため、実現には至っていない。

バイデン政権で独占・寡占規制を進める新ブランダイス学派とは?

 DPF規制で重要なのは、通信品位法に加えて、反トラスト法の執行強化と解釈見直しだ。反トラスト法は米国版「独占禁止法」のようなもので、DPFだけに特化したものではない。しかし、バイデン政権ではDPFの独占・寡占を問題視する新ブランダイス学派の研究者が要職についたことは注目すべきだ。


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