デジタル時代の経営・安全保障学

2022年5月15日

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川口貴久 (かわぐち・たかひさ)

東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員

1985年福岡県生まれ。専門は国際政治・安全保障、リスク管理。慶應義塾大学KGRI客員所員。2010年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、08年横浜市立大学国際文化学部国際関係学科卒。最近の論考に「経済安全保障を考慮したガバナンス・リスクマネジメント態勢の構築」(東京海上ディーアール)、「2020年アメリカ大統領選挙と中国の影響力行使」(笹川平和財団)など。
 

 2022年4月25日(米国現地)、ツイッター社は同社がイーロン・マスク氏に買収されることで合意に至ったと発表した。買収総額は約440億米ドルとされる。マスク氏は「言論の自由は民主主義が機能する上での基盤であり、ツイッターは人類の未来にとって不可欠な事柄が議論されるデジタルの広場だ」とツイッターに投稿した上で、アルゴリズムのオープン化やスパムボットの撲滅を目指すという。

イーロン・マスク氏がツイッターを買収するなど、デジタルプラットフォームにまつわる環境は変化しつつある(ZUMA Press/アフロ)

 要は、(あくまでもマスク氏の観点で)Twitterをより自由で民主主義的なプラットフォームにしたいらしい。マスク氏の真意が何であれ、世界有数のソーシャルメディアが買収されたことは衝撃的だ。

 ソーシャルメディアに加えて、検索(グーグル)、取引仲介(アマゾン、アップルやグーグルのアプリストア)といったデジタルプラットフォーム(DPF)は、もはや現代社会のインフラストラクチャである。ビジネスから、言論・社会の合意形成、戦争・安全保障に至るまでDPFは欠かすことができないからだ。

 そして、DPFは国境を越えて広がる存在でもある。慶應義塾大学の山本龍彦教授は、国家とDPFの関係を中世・近代欧州における国家(皇帝)と教会(教皇)の関係に例える。DPFはかつてのカトリック教会と同様に、独自の法(アルゴリズム)、独自の制裁方法(アカウント凍結など)、独自の課税システム(データ収集)を有しているという。

 事業の展開範囲に加えて、DPFと電気・通信といった伝統的社会インフラとの大きな違いの一つは、DPFへの規制が小さい点である。それゆえ、ツイッターも世界有数のビリオネアに買収されてしまった。

 しかし、規制という点ではDPFをとりまくビジネス環境が変わりつつある。欧州では包括的な規制法案が成立し、米国でも同様の機運が高まる。

先行する欧州のデジタルプラットフォーム規制

 22年4月、欧州ではデジタル市場法案(DMA)とデジタルサービス法案(DSA)が成立し、早ければ今年中に施行される。前者はデジタルプラットフォームに焦点を当てた競争法的規制、後者はプラットフォーム上のコンテンツを含むサービスへの規制といえる。

 もう少し詳しく説明すると、DMAは欧州連合(EU)市場の競争と公正を維持するため、プラットフォーム上の情報の流れを左右する「ゲートキーパー(門番)」への規制だ。対象となるのは、電子商取引などの仲介サービス、検索サービス、ソーシャルネットワーキング、ビデオ共有、個人間コミュニケーション、パソコンやスマートフォンの基本ソフト(OS)、クラウドコンピューティング、広告といった「コアプットフォームサービス」(DMA第2条)を提供する事業者で、かつ継続的に一定の売上規模やユーザ数(DMA第3条2)を超える事業者である。ゲートキーパー企業は自社の製品やサービスを優遇することや、別のサービスと自社サービスを連携させることを禁止する。

 DSAはさまざまな「仲介サービス提供者」に対して、違法コンテンツの拡散に関する責任を新たに規定するものである。事業者の形態や規模に応じて義務は異なり、課せられる義務が軽い順に、①インターネットアクセスプロバイダやドメイン登録業者などの「仲介サービス」、②クラウドサービスなどの「ホスティングサービス」、③各種の「オンラインプラットーム」、④欧州市民4億50000万人のうち10%以上が利用する「超巨大オンラインプラットフォーム(very large online platforms)」である。超巨大オンラインプラットフォームは「違法なコンテンツの拡散や社会的な損害において、特別なリスクをもたらすもの」とされる。

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