2024年11月22日(金)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年5月15日

 一人はコロンビア大学の法学者で、技術・競争政策担当の大統領補佐官に就いたティム・ウーであり、もう一人はウーの弟子で同じくコロンビア大学の法学者だったリナ・カーンである。カーンは論文「Amazonの反トラスト法のパラドクス」で注目を浴び、32歳という若さで連邦取引委員会(FTC)委員に任命された。

 ウーやカーンに代表される新ブランダイス学派は、巨大企業の存在や独占を純粋な経済学の問題としてではなく、民主主義に対する危機や不平等といった政治(哲)学の問題とみなし、1970年代以降の反トラスト法の伝統的な解釈、つまりシカゴ学派の理論を徹底的に批判する。新ブランダイス学派によれば、シカゴ学派の反トラスト法解釈は消費者利益(価格)を重視してきたが、これはDPFの特徴や優位性を過少評価しているという。

 新ブランダイス学派やFTCは、Facebook社(現Meta社)が将来の競争上の脅威であるワッツアップ(WhatsApp)やインスタグラムを買収することで消費者の選択肢を狭めた、グーグルは検索結果の上位に自社関連の情報を優先的に表示させている、と主張する。つまり、製品・サービスが無料もしくは安価であっても、消費者やユーザーの不利益が存在するというのだ。

 実際、バイデン政権は新ブランダイス学派の哲学に基づき競争政策を進める。バイデン大統領は21年7月9日、「米国経済の競争促進に関する大統領令」に署名し、反トラスト法の執行強化の対象分野としてテクノロジー、特に「ビックテックプラットフォーム」を掲げる。

日本はあくまで「自主規制」にとどまる

 EUのDMAおよびDSA、これらに先行する「一般データ保護規則(GDPR)」は、全世界でデータを収集する米国DPFへの牽制の側面がある。その米国はこれまでデータの自由な流通と利用を掲げてきたが、一部州での個人データ保護の法制化やDPF規制の声があがる。

 日本は、欧州やかつての米国とは異なり、データ流通とDPF規制の要否に関する立場を明確にしてこなかった。肯定的にいえば、日本は「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を掲げ、データ政策に関する米欧間ギャップ(正確にいえば、米国DPFと欧州の思惑の違い)を埋めようとしてきた。

 こうした事情もあり、現在、日本で議論されるDPF規制は欧州ほど包括的なものではないし、強い規制が敷かれているわけではない。

 もちろん、いくつかの進展はある。日本では、仲介型プラットフォーム取引の透明性・健全性向上を目的に「デジタルプラットフォーム取引透明化法」(21年2月1日施行)が成立した。同法の規制対象となる「特定デジタルプラットフォーム提供者」としては、アマゾン、楽天、ヤフー(物販総合オンラインモール分野)、アップル、グーグル(アプリストア分野)が指定されている。

 他方、近年懸念が高まる偽情報や誹謗中傷といったDPF上の情報コンテンツについては、DPFによる「自主的取組」「自主規制」を確認したに過ぎない。

 例えば、総務省に設置された専門家委員会「プラットフォームサービスに関する研究会 最終報告書」(2020年2月)は、偽情報対策の考え方を公表している。報告書は結論として、「まずはプラットフォーム事業者を始めとする民間部門における関係者による自主的な取組を基本」「表現の自由の確保などの観点から、政府の介入は極めて慎重であるべき」とする。他方で、「民間による自主的スキームが達成されない場合は、行政からの一定の関与(直接規制・政府規制)の余地を残すもの」としている。

 同様に、総務省のインターネット上の誹謗中傷対策に関する緊急提言も、DPFに対しては「自由な言論の場を提供するプラットフォーム事業者による自主的な取組が特に重要」としている。


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