エルドアン大統領やチャブシオール・トルコ外相によると、加盟に反対する理由は公式には2つだ。1つはフィンランドとスウェーデンが、トルコがテロ組織として掃討作戦を進める反体制組織「クルド労働者党」(PKK)や、PKKと関係の深いシリアのクルド勢力を支援していることだ。
第2に、トルコが2019年にシリア北部に侵攻した際、両国がトルコへの武器禁輸の発動に加わったことだ。エルドアン大統領は「トルコに制裁を科すような人々の加盟に賛成することはできない」と反発。チャブシオール外相も「テロを支援する国は加盟国になるべきではない」などと反対の理由を挙げた。
だが、米高官は「エルドアン氏は断固拒否するとは言っていない」と指摘。歩み寄りの余地があるとの考えを示しており、他の要求を獲得するためのエルドアン大統領一流の揺さぶりではないか、と見る向きが多い。米ブリンケン国務長官は18日に急きょニューヨークでチャブシオール外相と会談、トルコの真意を確かめる意向だ。
真の狙いはEU加盟の保証か
こうしたエルドアン大統領のはみ出し的な言動は過去にも再三繰り返されてきた。20年には、NATOの加盟国でありながら敵性国のロシアから最新鋭の対空防衛システムS400を導入。反対した米国との関係が冷却化、ステルス戦闘機F35の供与停止という制裁を科されたままだ。
今回の大統領の言動について、ベイルートの消息筋は「彼はフィンランドとスウェーデンの加盟に最後まで反対するつもりはない。これを取引カードに利用して取れるものを取りたい、というのが思惑だろう。どこまで暴れることができるか、計算しながらの振る舞いだ」と見ている。
同筋によると、エルドアン大統領にはウクライナ戦争をめぐって欧米、とりわけ米バイデン大統領に強い不満がある。ロシアとウクライナの和平交渉の仲介役として、会談場所を提供するなど努力しているのに、トルコの調停への支援や評価が乏しいことだ。そうした中、NATOの新規加盟には加盟30カ国の全会一致の賛成が必要なのにもかかわらず、北欧2カ国の加盟が既定路線のように進められていることへの反発があるのだという。
欧州の報道などによると、エルドアン大統領は最近、バイデン大統領との関係が疎遠になっていることを懸念。「トランプ前大統領時代は電話で気軽に交流ができたが、バイデン大統領になってからはホットラインがなくなった」と漏らしており、バイデン大統領の気を引こうとした側面があるのかもしれない。