2024年4月26日(金)

教養としての中東情勢

2022年5月18日

 それでも、「真の狙いは欧州連合(EU)加盟の保証」(同筋)ではないか、との見方も強い。トルコはEUへの加盟が悲願で、1987年に加盟を申請したものの、人権や法の支配の軽視などを理由に35年以上も加盟が認められてこなかった。トルコ国内にはEU加盟が認められないのは「白人ではないため」という人種差別的な批判がある。

 しかし、今回のロシア軍のウクライナ侵攻では、EU内からウクライナ加盟を求める声が相次ぎ、キーウを訪問したEUの幹部はウクライナの加盟をすぐにでも認める考えをウクライナのゼレンスキー大統領に伝えてさえいる。エルドアン大統領はこうしたEUの姿勢に「誰かが戦争を仕掛けてくれば、トルコの加盟が議題になるのか」と痛烈に皮肉っている。

欧米も引かず、駆け引きは続く

 エルドアン大統領は経済の低迷やインフレの高進などで支持率が低下、来年6月に予定されている大統領選挙での再選に黄信号が灯っている。だからこそ4月末には、敵対してきたサウジアラビアを訪問して関係改善を果たさざるを得なかった。経済の浮揚にはサウジの力が必要だったからだ。

 「北欧2カ国のNATO加盟を認める代わりに、欧州からトルコのEU加盟の保証を取り付ける」。エルドアン氏が今回の事態をトルコの宿願を達成する絶好機と見なすことはむしろ当然だ。だが、欧米が同氏の足元を見透かしているのも事実。6月のマドリードで開かれるNATO首脳会議までエルドアン氏との駆け引きは続くだろう。

 
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