2022年8月10日(水)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年6月2日

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 4月から完全カンパニー制と管理職層には職務型人事制度を導入した。この狙いとは。

 「これまでもカンパニー制ではあったが、人事管理や監査などは本社サイドで一括して行ってきた。今後は、各カンパニーが自らの事業に対して責任を明確にし、自律経営を行うという意味で『完全』カンパニー制と位置づけている。これからは人事や監査、経理なども含めて各カンパニーで行う。

 管理職層にいわゆる職務型を導入したのは、職能型の人事制度が時代に合わなくなっていると考えたからだ。今の時代、スペシャリストがいなければ、求められることにマッチしていかない。ただ、多数のスペシャリストを養成する一方、少数のゼネラリストも必要だと考えている。選抜してそのような人材も育成していくつもりだ。

 もう一つはポジションの見直しだ。職能型だと、『人がいるからポジションをつくる』ということが往々にしてあったが、そうではなく『求められるポジションを設定して、それに当てはまるように人が専門性を高めていく』ことが重要になる。雇用延長によって、65歳まで働くことが当たり前になったが、近い将来、定年そのものがなくなるかもしれない。『何歳だから終わりです』ということではなくなる」

一人ひとりの力を生かす「リバースメンタリング制度」

 若者がメンターとなって、管理職社員などに話をする「リバースメンタリング制度」とはどのようなものか?

 「創業150年、鉱山業をはじめとした現場中心の会社だということもあり、コミュニケーションのあり方が『上意下達』という面があった。それが行き過ぎると指示待ちの人間が増える。

 私自身、若手との対話集会を積み重ねてきた。毎回5、6人くらいずつ2時間ぐらいのセッションで、何のテーマも設けず、ざっくばらんに話し合うという形式だ。同世代の役員と話をしていると、お互い、大体のことがすんなり分かってしまうことが多い。Z世代とも呼ばれる若い人たちが今、どのようなことを考えているのか分かっただけでも大きな意義があると思う。

 そうした背景があって、リバースメンタリングを導入した。この制度は若手が自分の伝えたいテーマを持ってプレゼンをし、それを元にして、半年間、意見交換をするというものだ。

 私のように60代の人間もいれば、20代の人もいる。そういう幅広い世代がいる組織の中で、『上からの指示なので反論できない』とか、『言わないでおこう』ということを解消していくことが必要だし、上からの指示を待っているような状態というのは、当社にせっかく入社してきてくれた人たちの能力を最大限活かしきれていないことになる。本当は100の力を持っているが、上からの指示に従っているだけで、50ぐらいしか力を発揮できていないかもしれない。それではあまりにももったいない。

 私としては、そういう人たちの力を最大限引き出すために、言いたいことが言えるようにしていく、そういう雰囲気をつくることが大事であり、そのような会社に変えていかなければならないという危機意識がある。

 私は40代前半の頃、現場トップとしてベトナムの石灰石鉱山に赴任した。エンジニアとしての技量に自信を持って臨んだが、最も大変だったのは、現地スタッフとコミュニケーションを取り、こちらの意図するように動いてもらうことだった。結局は、技術を良く知る技術者であっても、人に動いてもらわなければ、自分の考えていることを実現することはできない。

 この経験が今も生きている。自戒を込めてだが、優秀な社員でも、経営者でも、事業を誰よりも知っているということにはならない。誰にでも知らないことはいっぱいあって、もっとよく知っている人はたくさんいる。だからこそ、一人ひとりの力を十二分に発揮させるようにすることが大切だ」

 会社は組織である以上、上下関係は必要だが、権威を振りかざすだけでは人の心は動かせない。三菱マテリアルではトップ自らが常に〝謙虚〟であり続けることで社員の力を引き出しているのだ。

 
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現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう

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