2022年9月27日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2022年3月19日

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 『発達障害という才能』(SB新書)の著者の岩波明さんは精神科医。昭和大学付属烏山病院の院長であり、発達障害の専門外来を担当している。

 「近年、専門外来受診者が増加中だそうですが、発達障害の人は増えている?」

 「いや、人数や有病率は増えていません。受診者が増加したのは、発達障害の認知が広まったから。大人になって気付き、病院にやってくる人が増えたんです」

 発達障害は、生まれつき脳機能に偏りが見られる疾患の総称。

 ADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)などがあり、「落ち着きがなく、不注意」「対人関係が苦手で、物事へのこだわりが強い」等々の特徴があるものの、成人期の当事者で知的障害を伴うことはまれである。岩波さんも「疾患というよりも特性と呼ぶべき」と本書で述べている。

なぜ、発達障害の認知は広まったのか?

 「認知が広まったのは、時代状況のせいですか?」

 「そうですね。以前は児童・思春期の疾患とされていましたが、成人になっても症状は続く。そのため経済停滞で職場の管理が強化されたりすると、ストレスから不適応になってしまう人が増えるんですね」

 これまでほぼ通常の生活を営んできた多くの発達障害の人が、時代の変革期に遭遇して生き辛さを感じ始め、その存在がにわかに浮上してきた、ということらしい。

 しかし、本書で岩波さんは、「このような変革期だからこそ、発達障害の人に停滞状況突破の役目を果たしてほしい」と訴える。

小栗上野介と、大村益次郎

 日本史の変革期といえば幕末から明治。本書ではその時期の発達障害の当事者として、勘定奉行で外国奉行だった小栗上野介と、戊辰戦争の指揮官だった大村益次郎を挙げる。

 小栗は聡明で先見の明があったが、ADHDのため衝動性が激しく、罷免・任官を70回も繰り返した。大村も記憶力抜群の切れ者だったが、ASDで人間関係に難があり、明治に入って陸軍を創立しながら暗殺された。

 「2人の名前が歴史に深く刻まれたのは、時代が不安定な変革期だったからですね。異能の才が花開いた。もしも平時であれば、2人とも社会に埋もれていたことでしょう」

 ADHDやASDの人の持つ特性には、平時の秀才にはない突破力がある、と言う。

 「前著(『天才と発達障害』文春新書)でも発達障害と天才の関係を書きましたが、今回意識したのはビジネスとのつながりです。発達障害の人たちがこれまでなかった新規事業をいかにして立ち上げたか、ですね」

スティーブ・ジョブズ、イーロン・マスク

 アップルを創業したスティーブ・ジョブズは、唯我独尊の偏屈者だったが、傑出した才能とディベート力があった。世界的電気自動車企業テスラのCEOのイーロン・マスクは対人関係が苦手でいじめられて育ちながらも好奇心旺盛。2人ともADHDの特性があり、世の中の仕組みを変えた起業家になった(ただしイーロン・マスクは自身をASDに含まれるアスペルガー症候群と述べている)。

 日本では、樂天グループの三木谷浩史氏と家具小売りの世界的企業、ニトリ会長の似鳥昭雄氏がADHDの経営者として知られる。

 三木谷氏も似鳥氏も、多動、不注意、集中力の欠如、衝動性などで苦労した後に、新事業に果敢に挑戦して成功を勝ち取った。

 「ADHDの人は、過剰集中とマインド・ワンダリングが特徴ですけど、この2大特性が創造力と結びついています」

 マインド・ワンダリングは「心の徘徊」。注意散漫な「心ここにあらず」の状態だが、脳内でさまざまな情報がつながり、非凡な発想や斬新な企画を生み出すことがある。

 過剰集中は、興味を抱いた特定の対象に超人的な集中力を注ぐこと。1878年に電気照明会社を設立した発明王エジソンは、1日睡眠3~4時間で仕事に没頭した由。

 「ただし、特性がマイナスに働くこともあります。過去にこだわって落ち込んだり、不注意で事故に遭ったり。過剰集中の対象が見込み違いであることも、当然あり得ます」

 「才能が開花するには何が必要でしょうか? エジソンや三木谷氏の場合は、親に理解があって自由にさせてくれたようですが?」

 「本人の努力と周囲の理解、そして才能を発揮する環境を獲得できるかどうかでしょうね。まず本人が自分の特性と問題点をしっかり自覚し、周囲との軋轢に関して対応策を考えておくことが大切だと思います」

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