2024年12月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2022年1月28日

 日本では、年間約138万人(2020年)の死亡者のうち、病院以外での死亡(警察が扱う異状死)が約17万人いる。

 日本に独立した法医学研究所(法医学センター)がないため、異状死の人々の死因がきちんと究明されていない、と問題提起したのが山田敏弘氏の『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)だ。

「コロナ禍で死因究明問題が浮き彫りになった、と冒頭に書かれています。異状死体の中のコロナ感染死は、21年1月に少なくとも132人いるけれど、彼らが本当にコロナが原因で死亡したかどうかは不明、と」

「はい。異状死の人がPCR検査で陽性なら、それ以上死因は追求されずコロナ死亡となります。解剖されないのでわからない。犯罪遺体なのにスルー、の可能性すらあります」

 しかも、厚労省は、コロナ感染して自宅療養中に死亡した人の人数を当初から最近まで、実は把握していなかった。

「つまり、日本のコロナ死者数は信用できない?」

「独立した死因究明の機関がないので正確な人数ではない、ということですね」

日本の異常死の扱い方

 日本での異状死の扱いは以下の通りだ。

 死因不明の異常死体が発見されると、警察の検視官が検視し、警察医(一般の臨床医)が立ち会って死因を判定する。その結果、事件性がある場合は司法解剖され、事件性がないものの死因不明な場合は、監察医制度がある地域(東京23区、大阪市、神戸市)では監察医による行政解剖がなされ、それ以外の地域では(司法解剖と同様)大学医学部などで法医学者による調査法解剖がなされる。

「異状死発見から解剖まで、一応システムがあるのでいいように見えますが、システム自体に問題がある、と。最初に、死因究明の専門家ではない検視官や警察医が死因を判定すること。専門知識がない場合、外表や既往症で判断するしかなく、間違いが生じやすい。また、司法解剖や調査法解剖を担当する法医学教室の法医学者が全国に約150人しかいない。1県に1人か2人。諸外国と比べて圧倒的に少なく、従って解剖率も低い?」

「そうです。問題山積の中で、私が特に指摘したいのは所轄官庁のタテ割りです。最初に異状死体を扱う各警察署は警察庁。遺体が搬送される大学医学部の法医学教室は、管轄が文部科学省。事件性のない行政解剖は公衆衛生が目的なので、所轄は厚生労働省。当然、予算も省庁ごとに異なっている。異状死の死因究明の指針を最終的に誰が出すのか、現状では現場によってバラバラなんですね」

 なぜ、このような状態になったのか?

 日本では、司法解剖はドイツの刑事システムを導入。行政解剖はアメリカのメディカル・イグザミナー(法医学者である監察医)制度をモデルにしており、2つの国の異なる2つのシステムが混在しているのだ。

 アメリカにはコロナー(検視官)制度の州とメディカル・イグザミナー制度の州、または両方の州がある。ロサンゼルスの場合、異状死体はコロナー(検視専門の役人)が見て現場を保全、遺体を検視局に運ぶ。検視局ではメディカル・イグザミナー(監察医)が解剖し、死因を究明する。


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