2024年11月21日(木)

新しい原点回帰

2022年6月12日

 廣田硝子の工場は関東大震災と太平洋戦争の空襲で二度にわたって焼失。2代目の社長である廣田さんの祖父は、思い切って製造は外部の協力会社への委託に切り替えた。今流で言うなら工場を持たない「ファブレス」企業だ。戦後、ガラス瓶などは機械装置による大量生産へと変わっていく中で、廣田硝子は、作家モノ、つまり作家が手作りする一点モノと大量生産品の中間に焦点を絞る。職人の手で作る中量品。当然、大工場での大量生産品より価格は高いが、あくまで生活の中で使ってもらう食器類を中心に、こだわりながら作り続けてきた。

 そうした中量品を製造するメーカーは今では全国でも10社ほどしかない。デフレの時代が長く続き、シビアな価格競争の中で、大量生産品に負けて廃業するところが少なくなかった。

大正時代の製法を
よみがえらせる

 そんな中で廣田硝子がこだわっているのが、ガラス食器が大きく花開いた大正時代のデザインへの「原点回帰」。2002年に3代目を継いだ父、廣田達夫氏が、職人の手作業による、大正時代に流行したクラシックガラスの復興に力を注いだ。07年に4代目を継いだ達朗さんがこの路線に磨きをかけ、ちょっとレトロでお洒落なガラス食器のラインナップを揃えてきた。

廣田硝子の店内、歴代のガラス食器のデザインが掲げられる

 「原点回帰」と言っても単に大正時代のものをそのまま復刻しているだけではない。大正時代に盛んだった「あぶり出し技法」で作る『大正浪漫硝子』は、一度消えかかった技法を復刻。職人が成形する際の温度調整で、乳白色の模様が浮かび上がる。かき氷を入れるカップや、冷茶グラスなど生活の場面に合わせたお洒落なガラス器が揃っている。

「あぶり出し技法」を復活させることでよみがえった『大正浪漫硝子』

 また、江戸切子の紋様を板状にした「江戸切子板」は和風のステンドグラスとしてレトロな空間を彩る。


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