2024年11月21日(木)

新しい原点回帰

2022年6月12日

 ロングセラーの商品も多い。その代表格が、1976年の発売以来、形を変えていない『元祖すり口醤油差し』。昔から主流だったネジ式の蓋部分をすりガラスに変え、液だれを大幅に解消。「漏れない醤油差し」として大ヒットした。2020年度のグッドデザイン賞で、ロングライフデザイン賞にも選ばれた。廣田硝子が扱うガラス器は600アイテムにのぼる。

1976年発売の『元祖すり口醤油差し』。パッケージデザインにもこだわりを感じさせる。

 最近、廣田さんは、ガラス食器に吹き始めている〝追い風〟を感じている。

 「ひと頃はビールのCMでも缶ビールをそのまま口にするシーンが多かったのですが、今はグラスに注いだものを美味しそうに飲むものが主流です。環境意識の高まりや、生活に潤いを求める人が増え、ちょっとお洒落なガラス器を使う流れになってきた」と廣田さん。「ガラスは他の素材に比べて飲み物や味を損なうことがありません。やはり美味しく飲むにはガラス製のグラスに限ると言うことなのでしょう」。

 世の中に広がる環境重視の流れも、リサイクル可能な原料でのガラス製食器には追い風だ。持続可能な開発目標(SDGs)が世の中に広がったことで、ペットボトルや缶、紙コップといった資源を浪費する生活スタイルの見直しが進んでいる。プラスチック製のストローを使わない動きも広がっているが、廣田硝子では耐熱ガラス製の『ガラスストロー』も販売。ガラス職人が手作りし、一つひとつ口元をラッパ状に加工。唇にフィットして飲みやすい形状に仕上がっている。ガラスは味や香りを損なわないだけでなく、中が見えて洗浄しやすいなど利点が多いという。

 外国人の日本のガラス食器へのニーズも驚くほど高い。錦糸町にある本社の1階は、レトロなイメージで統一した直営店舗に、貴重なガラス製品を展示するミュージアムや和ガラスの製法を学ぶ研究室を併設した「すみだ和ガラス館」。17年にオープンすると、インバウンドでやってくる外国人観光客の隠れた人気スポットになった。今は、新型コロナウイルスの影響により、日本にやってくる外国人が激減したが、新型コロナが収束すれば再び人気が沸騰しそうだ。

外国人から評価される
日本のガラス

 フランスで開かれた展示会に出展した際、廣田さんは、日本でガラス食器の製造が長く続いていることに関心を示すバイヤーが多いことに驚いたという。今や、世界中に日本食が広がり、世界の生活の中に日本食がすっかり根付いている。「日本食ブームは日本のガラス食器にも確実に追い風です」と廣田さんも言う。

 西洋の国々は、日本に比べて圧倒的にガラス食器へのこだわりが強い。ワインの種類ごとにグラスを変える文化も根付いている。日本酒の種類によってグラスを使い分けるといった新しいスタイルが西洋で生まれてくるかもしれない。日本食に合わせるなら、日本製のガラス食器となりつつあるわけだ。ガラス食器の本場に日本製が進出していければ、その市場は大きい。

 日本のデパートでは、ガラス食器の専門コーナーを出しているのは外国の有名ブランドばかりで、日本製は陶器や漆器のブランドの「脇役」として扱われている例がほとんどだ。再びブームが訪れるであろうインバウンド消費の中で、日本製のガラス食器の専門コーナーが人気を集める日が来るかもしれない。そうなれば、ようやくガラス食器が「舶来品」から日本の文化に根付いた食器(和ガラス)へと進化したことを示すことになる。

写真=高梨光司 Koji Takanashi

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Wedge 2022年6月号より
現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう
現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう

日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが“経営の最優先課題”になりつつあるかのようだ。しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。


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