健康から寿命を考える
ここまででは、「健康であれば寿命が長いはずで、長寿の都道府県の高齢者は幸福であるはずだ」ということを前提とし、平均寿命に焦点を当ててきた。しかし、長生きをしても必ずしも「健康な状態で生活している」とは限らないことが指摘されている。
日本では、厚生労働省が行う「国民生活基礎調査」の調査項目のうち、「(健康上の理由で)日常生活に制限のあるもの」の結果を用いて、単純な平均余命から制約のある回答者の比率分を削って、健康寿命を試算している。表2と表3には男女別に、健康寿命の長い地域と短い地域、そして平均寿命との差異を比較した結果を示している。
まず、表2の男性の結果を見ると、平均寿命で上位10都道府県にランクインしていた地域のうち、健康寿命でベストテンにランクインしている地域は滋賀県と福井県のみであることがわかる。両県は平均寿命より健康寿命が8年以上短いことも特徴的である。
このほか、平均寿命では2位にランクされていた長野県は健康寿命が平均寿命よりも9年以上も短く30位と大幅にランクが下がっている。平均寿命で7位にあった熊本県も健康寿命は9年近く短く37位に下がっている。
逆に、鹿児島県は平均寿命では43位であったが、健康寿命では大幅に順位が上がり、7位にランクインしている。鹿児島県の健康寿命と平均寿命の差を見ると6.62年と他地域よりも小さい。
表1の平均寿命では、大まかに男性の寿命は大都市で長く地方で短い傾向があったが、健康寿命では上位にランクされているのは地方部である。また下位にランクされているのは大阪府を除いて比較的地方部であり、都市部の健康寿命が長い訳でも短い訳でもないことがわかる。
また、地域別の格差については、男性の平均寿命では最長-最短の差異が3.11年であったが、健康寿命では2.33年と1年余り短縮している。
一方、表3に示された女性の健康寿命についても、平均寿命でベストテンにランクされていた県のうち健康寿命でも残った県は島根県と富山県だけであることがわかる。
この差異が決定的に影響したのが長野県であり、1位にランクされた平均寿命から健康寿命は12.69年も短くなり、健康寿命では37位にランクを落としてしまった。平均寿命と健康寿命の差が大きいということは、生存していても生活上の制約を持ちながらの晩年を意味し、QOL(Quality of Life:生活の質)が低いため幸福感を十分に感じられないおそれがある。
表3のもう一つの注目点は栃木県であり、平均寿命では46位であったが健康寿命では7位にランクインされている。健康寿命と平均寿命の差異が10年を切っている。