2024年4月24日(水)

都市vs地方 

2022年5月30日

 女性についての都道府県寿命格差は、平均余命では1.74年であったが、健康寿命では3.90年と逆に拡大しており、女性は寿命が長いものの高齢後期の健康状態の落ち込みは大きな影響を及ぼすことがわかる。このことを検証するため、図3では横軸に平均寿命、縦軸に平均寿命から健康寿命の減少年数をとって男女別に47都道府県を示した。

(出所)横軸:平均寿命、縦軸:健康寿命-平均寿命。厚生労働科学研究「健康寿命のページ」都道府県別健康寿命(2010~2019年)および「平成27年都道府県別生命表の概況」(厚生労働省)より筆者作成 写真を拡大

 

 図中の点線は平均寿命が1年延びる場合に健康寿命も1年短くなるとした場合の仮想的な直線を示している。これを見ると、男性(青い点)は女性よりも平均寿命は短いものの、大部分の点は仮想線の上部に位置していることがわかる。すなわち、男性の場合は平均寿命が1年延びた場合健康寿命は1年以下しか減らないということになる。

 これに対して、女性の赤い点は、仮想線よりも下部に位置している。これは、女性の場合は平均寿命が1年長くなっても、健康寿命は例えば寝たきりになるなどして1年以上減ってしまうことを意味する。なお国レベルでの国民の保健政策としての健康日本21(第二次)でも「平均寿命の 増加分を上回る健康寿命の増加」という目標が設定されている。

 ただし、平均寿命は死亡というゆるぎない事実に基づいているのに対し、健康寿命算定の基礎とされた「日常生活の制約」は、自己評価であり、制約の軽重も考慮されていない点は注意が必要である。

地域別の寿命の違いは何を意味するのか

 ここまでの結果を見て、寿命には地域の間で差があるだけではなく、同じ地域の中でも平均寿命と健康寿命の差があるため、地域間の寿命ランキングの逆転現象が起きてしまうことが分かった。ここで、地域的な寿命の比較と個々人の寿命の関係について検討する必要がある。例えば、今回のデータを見て、寿命が長いとされる地域に住み変われば、翌日から長生きできるかというと、当然にそのようなことが起こるわけではない。

 このことはここ50年余りの日本の都道府県別平均寿命の推移(表4)を見るとよくわかる。男性を例に取った1970年代の日本の寿命の長い都道府県ベスト10は、東京をはじめとして京都、神奈川、愛知といった大都市を含むいわば都会がランクインされていた。これは、50年前の地域別の所得、公衆衛生環境、高度医療施設の配置の関係など地域的な要素が少なからず影響していたものと推察される。

 現在では、東京はベストテンから消え、地方圏もランクインされている。では、地域別に寿命を比較する意味が全くないのかというとそうとは限らない。

 最近(2020年)の死因の1位が 「がん」、2位が「心疾患」、3位が「老衰」、4位が「脳血管疾患」である。3位の「老衰」はいわば天寿を全うしたとすると、がん、心疾患、脳血管疾患は生活習慣にかかわる疾病であり、都道府県別の食習慣(食塩摂取、野菜の摂取等)、社会生活習慣は少なからず健康や寿命に影響をおよぼすといえる。また各地域における保健施策による健康介入の影響も寿命にかかわりを持つと考えられる。

 これらの見地から考え直すと「どこの県に住んだら長生きか」よりも「寿命の長い地域の生活習慣を地域でも個人でも取り入れていこう」という視点が重要である。その意味でも、統計分析を駆使してウォーキングする人を増やすために歩きやすい環境の整備など施策立案により平均寿命1位に至った滋賀県の取り組みや、健康寿命1位を維持しようとアプリを活用した運動の促進や塩分控えめで野菜中心の食事を官民一体で進める大分県の取り組みなどは、大いに参考にしたい。

 日常生活における車の使用頻度など、都市と地方では、健康や寿命に関する環境が異なる。また、ここまで見てきた通り、平均寿命と健康寿命が大きな差があるなど、都道府県により現状や課題も異なるため、地域性や性別に応じた取り組みが必要となる。

   
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