胡氏は既に昨年11月の党大会報告で、政治体制改革について「積極的かつ穏当に進める。中国の特色ある社会主義政治制度の優越性を発揮し、西側の政治制度モデルを引き写しにしない」と後継指導部に申し送りをしている。
温首相は2007年3月の記者会見で「民主や法制、自由などは資本主義特有のものではなく、人類が共通に追求する価値観だ」と発言。この普遍的価値論の是非をめぐって党内で激しい論争が起きたが、09年春までに「普遍的価値を中国に当てはめるのは誤り」との結論に達して論争は決着済みだ。
こうした経緯から、習指導部は政治体制改革に極めて慎重だ。特に権力移行期にあっては、安定をより重視して政治体制改革は当面凍結しそうだ。しかし、長期的な安定を維持するためには、本格的な政治体制改革の推進が不可欠だ。
約2割が批判票を投じるという異例の事態
共産党の決めた政策を追認するだけとして「ラバースタンプ」(ゴム印)と西側メディアから揶揄されてきた全人代だが、最近は反対票を投じる人民代表も増えた。
全人代最終日の議案採決では、2013年度予算案には反対509票、棄権127票が投じられた。人民代表は約3000人であり、約2割が批判票を投じる異例の事態となった。微小粒子状物質PM2.5による大気汚染などの環境破壊や貧富の格差の広がりへの政府の取り組みに対する不満の表れとみられる。
最高人民法院(最高裁)と最高人民検察院(最高検)の活動報告の採決でも、反対・棄権票の合計はそれぞれ725票と606票に上り、官僚汚職への対策が不十分だとの国民の不満を反映した。
新指導部は批判票を謙虚に受け止め、社会のひずみの是正に全力で取り組むべきだが、共産党という法を超越した絶対権力が存在し、民主化と法治が進まない限り、ひずみを正すのは極めて難しい。
国民の不満は我慢の限界に近づいている。共産党の一党独裁とはいえ、国民の支持がなければ、人口13億の大国を安定的に統治してことはできない。本格始動した習指導部は遅かれ早かれ試練に直面することになろう。
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