2024年11月22日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年6月7日

耕地利用率向上に向けた麦の生産

 唱歌『冬景色』に「人は畑に麦を踏む」と登場する。冬作物である麦の根が霜などで浮き上がらないよう、朝の畑で麦踏みする光景である。そして、麦は、おおむね6月に黄金色の穂波で収穫を迎える。

 現在は、この〝麦秋〟を見かけなくなった。コメの生産調整により、単収は低く、高品質で高価格の例えばコシヒカリといった品種が生産されるようになった。そうした品種の田植えの時期は5月だから、麦とバッテイングするということで、「麦は輸入すればよい=麦は安楽死」などといわれてしまった。

 本来は、麦ほど集団化、大規模化、機械化に適した作物はない。コメから麦へ転換するのではなくて「コメも麦もどちらも二毛作で」作る。農地の有効利用、耕地利用率の向上が最良の食料安全保障だ。

 麦の復活および耕地利用率の向上は、なんでも作れる「汎用水田」の整備につながり、それこそが最大の食料安保なのだ。水田は世界最高の「生産・環境装置」であり、農業は600億トンの水を使っても、その3分の2の水は河川や地下水へ戻って循環し、サステナブルの象徴といえるだろう。水田の維持は、すなわち地域社会の健全な発展なのである。

 現在世界で栽培されている小麦の源の品種は「ノーリン・テン」(農林10号)と称される日本が開発したものである。1935年に、東京帝国大学の稲塚権次郎氏が開発し、第2次世界大戦後の米国に渡ってさらに改良が加えられ、世界で最高の小麦、「緑の革命」を担った。低く倒れにくい、栽培しやすい小麦である。そうした意味でも、日本が麦の生産を再興することは意義がある。

コメを輸出していれば 「いざの備蓄」 になる

 目下の農政、とくにコメ政策は、国内需給をマッチさせ価格を下げない減産の政策である。その結果、消費者が高い価格で負担する分と、作物転換のため生産者へ財政負担する分の二重払いになっている。

 そこで、「財政負担による直接支払い」で農業者の所得を確保し、価格は市場に委ねれば、国際価格で輸出でき、世界各国の需要を獲得する大きなチャンスが生まれるだろう。現状の「日本のコメは高品質・高価格で勝負」では将来が展望できず、コメの国内生産は減り続ける。

 なぜなら、価格が高く維持される商品に将来性はないからだ。価格支持・維持は需要を減らすのだ。「新商品はやがてコモデテイ化する」の原則はコメにも通用する。

 ウクライナでは、小麦など昨年産の穀物が2000万トン以上もオデーサ港に滞留しているという。また、この5~6月の収穫は戦火で激減だろうから、サプライチェーンの中断とあいまって、需給はタイトが必至である。

 今秋の小麦播種については、フランスのテレビ局が伝えるように、「欧州連合(EU)全体で4%減反をしているし、フランスには35万ヘクタールの余裕がある」らしい。ただし、秋の播種については、肥料が行き渡るかどうかがカギで、米国では、より多くの肥料を要するトウモロコシから大豆へとシフトが起きていて、それぞれ需給に影響がありそうだ。 

 世界の需給が大きく動く中、日本は「コメを減らして他の作物へ転換」という伝統的な手法ではなく、需要のあるところに向けて積極的に増産し、世界に貢献していくべきではないだろうか。

 
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 ウクライナ危機による世界的な食料および肥料価格の高騰は、日本にも影を落とす。今こそ、自給率というモノサシに縛られない、真の食料安全保障を実現する政策が必要である。
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