2024年11月22日(金)

#財政危機と闘います

2022年6月9日

 さらに、賃上げ実現のため「賃上げ促進税制の活用促進」を挙げているが、これも従来からある施策に過ぎず、全く目新しさがない。しかも、これまで顕著な賃上げも実現しておらず、賃上げ実現手段としての有効性を検証すべきだろう。

 そして、スタートアップや海外からの投資を促す環境整備についても、海外からの投資受け入れ促進の重要性はバブル崩壊以降何度も指摘されてきたところ、目立った増加がないのは、単に日本経済に魅力がないからに他ならない。そもそも日本企業でさえ日本経済の先行きに悲観して投資をしないでせっせと貯め込んでいるわけだから、海外投資家や海外企業が日本に投資する道理はないのは明らかだ。

 スタートアップ企業への支援についても、すでに中小企業庁や日本政策金融公庫等諸機関が実施している。やはり、なぜ政府の思惑通り新規創業が増えないのか一度検証してみる必要があるだろう。

既視感漂う施策の数々

 この4本柱に係る施策に限らず、今回の骨太の方針に盛り込まれている施策に関しては、岸田内閣の前の歴代内閣においても何らかの形で推進されてきたものも多く、既視感が漂う。つまり、「新しい資本主義」は確かに岸田首相の発案であり目新しいものの、それを実現するための手段が、これまで一度はどこかで見聞きしたものがほとんどで手垢にまみれてしまっているのだ。

 実際のところ、歴代政権で同じような施策が骨太の方針に盛り込まれ推進されているという事実は、日本の経済・社会再生のための処方箋にはさしたる違いはなく、あとはいかに実行し実現していくか、その具体策に成否がかかっている。それがなかなかうまくいっていない現実を物語っているのかもしれない。

骨太の方針が骨細になった理由

 そうした考えにも一理あるが、しかし、本質的な理由は別にある。

 総理大臣のリーダーシップを支える機関として経済財政諮問会議が省庁再編に伴い内閣府に設置されて間もなく、諮問会議を最初に積極的に活用し、成功を収めたのは小泉純一郎首相(当時)であった。

 小泉首相、竹中平蔵担当大臣、諮問会議民間議員らが中心となり官邸主導で骨太の方針を作成して、当時の日本経済最大の懸念材料であった不良債権処理や、小泉元首相の最大の政治目標であった郵政民営化など目玉政策を次々に実現していった。良くも悪くも小泉首相の強烈な個性とリーダーシップの賜物と言える。

 しかし、所得格差の拡大などにより小泉・竹中構造改革路線に綻びが生じ、リーマン・ショックが決定打となり政権交代が起きると、経済財政諮問会議と骨太の方針が置かれた環境も激変した。

 政権交代により成立した旧民主党を中心とした連立政権では、それまでの自公連立政権との違いを際立たせるためか、「官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ」として政治主導を掲げた。

 その結果、国家戦略室、新成長戦略実現会議、国家戦略会議等、法的根拠のない会議体が乱立され、法令上の根拠と権限を持った組織が活用されることはなく、政策決定の指揮命令系統が麻痺し、本来は総理大臣のリーダーシップを支えるための経済財政諮問会議の役割が著しく低下してしまった。


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