Wedge SPECIAL REPORT

2021年11月8日

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企業による付加価値の創出は、日本経済の大きな課題の一つである。「Wedge」2021年10月号特集「人をすり減らす経営はもうやめよう」では、「新しい資本主義」に求められる各企業による取り組みを紹介しております。記事内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(Wedge Online Premium)にてご購入ください。

「良いものには必ず物語がある。それを伝えることを大切にしてきた」

 コンビニで1杯100円のコーヒーが手に入る時代に、最も高価なもので、1杯1万円のコーヒーを売る個人店。「サザコーヒー」(茨城県ひたちなか市)の創業者、鈴木誉志男会長はそう静かに語る。

慣れた手つきでコーヒーを淹れる鈴木会長(サザコーヒー本店) (WEDGE)

「安くて高品質」に誰もが疑問を抱かなくなった日本では、いつしか正当なコストを価格に転嫁することすらできなくなった。そういった社会の中でも、徹底して〝良いものを高く売る〟ことを続ける企業から、今こそ「価格に転嫁する経営」のヒントを学ぶべきだ。

 茨城県内に11店舗、東京に4店舗の直営店を構え、自社で製造する豆を卸している取引店は全国に600店を超えるサザコーヒー。その歴史は、1969年(昭和44年)、一軒の小さな喫茶店から始まった。

「家業を継いだ映画館はカラーテレビの普及ですっかり廃れ、新たな〝飯の種〟として、喫茶店経営を始めた」

 他店との差別化を図るため、当時まだ一般家庭には普及していなかったコーヒーを売りにすると決めた。

「頭より先に体が動く」という鈴木会長は、開業から3年で自家焙煎を始め、4年目からは世界各地の生産地をまわり、自らの足で〝本物〟を求め歩いた。

 徹底して材料・加工にこだわりつつも、鈴木会長は、大学卒業後すぐに入社した映画配給会社での経験から、ただ商品の価値を高めるだけでは足りないことに気づいていた。

「どんなに内容が素晴らしい映画でも、事前にその魅力が伝わらなければ人は足を運ばない。その内容を分かりやすく伝え、話題性を生んで初めて売れる映画になる。コーヒーも同じだ」

 まずは多くの人にコーヒーと自身の取り組みを知ってもらうため、コーヒー豆を探し求めてアフリカを回った自らの経験を旅日記として地元の茨城新聞に寄稿したという。そうして店と鈴木会長自身が知られるようになると、地元のPTAや公民館から「コーヒー教室を開いてほしい」との要望が舞い込むようになった。その場でコーヒーを無料で配る活動を今日まで続け、いつしか地元では知らない人がいないほどの有名店となった。

 さらに大きな転機を生んだのが、97年に南米コロンビアに開設した直営農園だった。サザコーヒーの事業規模で直営農園を持つことは非効率で、現地への交通費を加味すれば、農園経営は赤字だ。それでも鈴木会長が経営を続けるのは、数字では測れない付加価値を生んでいるからだという。

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