2024年4月17日(水)

勝負の分かれ目

2022年6月13日

 ドネアとの初対決となった2019年11月のワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝(さいたまスーパーアリーナ)で井上は12ラウンドの末に判定勝ち。しかし2度目の激突となった6月7日は僅か264秒、圧巻の瞬殺だった。

 初回の攻防でドネアから〝宝刀〟の左フックが繰り出されると、井上にスイッチが入った。終盤にいきなり右のカウンターストレートで左テンプルを貫き、ダウンを奪う。1ラウンド終了のゴングに救われたが、この時点で余力十分の井上から凄まじい一打をモロに食らった39歳のドネアはすでに致命的な大ダメージを負っていた。ドネア自身も試合後に敗因として認めているように、あえて世界屈指のハードパンチャー・井上を相手に打ち合いを望んで早期決着を図ろうとしたことが裏目に出てしまったと言える。

 2回に入ってから井上はさらにギアを引き上げていった。その勢いは止まらず、パンチの猛爆を浴びせなから畳み掛けていく。ロープ際へと追い詰め、何とか必死に反撃を試みるドネアに対して逆に強烈な左フックを入れて膝を折らせると、そこから一気にラストスパート。フラフラになって耐えるのがやっとの相手に容赦なく猛攻を続け、最後は再びとどめの左フックを一閃。衝撃的な結末で雌雄を決した。

 何せ相手は、あの「The Filipino Flash(フィリピンの閃光)」の異名を持つドネアである。5階級制覇、WBA、WBC、IBF、WBOの主要世界王座認定4団体すべてのチャンピオンベルトを手中におさめた輝かしい経歴を誇り、世界ボクシング殿堂入りも確実とされているレジェンドを序盤の攻防から僅か2ラウンドで完ぷなきまでに粉砕してしまった。

 しかもドネアは前回の対戦となったWBSS決勝で井上に判定負けを喫した後、21年5月にノルディーヌ・ウバーリ(フランス)を4ラウンドKOで下してWBC世界バンタム王座へ返り咲き、同年12月にはWBC同暫定王者のレイマート・ガバリョ(フィリピン)を相手に同じく4ラウンドKO勝利で王座統一と初防衛に成功しており、今回は39歳とはいえ再び調子を上げているタイミングでの再戦だった。

世界からは「リアル・モンスター」との声

 そんな好調モードだった英雄ドネアを相手に連勝しただけでなく再戦では力の差もまざまざと見せつけ、日本人初となる主要3団体の世界ベルト統一を果たしたのだから「ナオヤ・イノウエ」の名声が青天井の勢いで高まるのも当然の話であろう。欧米の各主要スポーツメディアや有識者たちが井上を軒並み大絶賛している模様は、すでに日本でも広く報じられている。

 前出の「ザ・リング」誌・フィッシャー編集長はドネアを返り討ちにした再戦後、井上について自らのツイッターで「ナオヤ・イノウエはリアル・モンスター。有資格1年目で殿堂入り間違いなしのドネアを2ラウンドで叩き潰した。バンタム級でドネアがKO負けした試合はこれが初めて。イノウエはなんて偉大なパンチャー、そして、テクニシャンなんだ」と舌を巻くコメントを書き込んでいる。

 かつて一世を風靡した元世界ヘビー級王者のマイク・タイソン氏も井上に関しては各メディアに対し、かねて「間違いなくマニー・パッキャオよりも上。リアル・モンスターだ」と評し続けているほど。いつもは舌鋒鋭く辛口がトレードマークのタイソン氏から、ここまで絶賛される日本人ボクサーも井上が最初で最後の存在かもしれない。いずれにせよ、これだけの評価と絶賛の嵐を浴びている井上だからこそ由緒あるザ・リング誌の「PFP」で1位に選出され「世界最強」の称号を得たことは必然の流れだったと言える。

マイク・タイソンも井上へは絶賛の言葉を入れる(Splash/アフロ)

 さて、その世界最強リアル・モンスターの井上が次の「獲物」として照準を定めているのは、WBO世界バンタム級王者ポール・バトラー(英国)だ。両陣営の間において年内にも日本で4団体統一戦が実現する方向で調整が進められているとみられる。

 33歳のバトラーの戦績は34勝(15KO)2敗。井上と同じオーソドックススタイルであることに加えアグレッシブな強さと巧さも兼ね備えるボクサーと評されるが、これまでの戦績や経歴などを総合的に見れば井上にとって難敵ではない。


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