井上が進むさらなる挑戦
バトラーをきっちり倒し、目標とする日本人初の4団体統一を果たした後、目指すのはスーパーバンタム級(55.34キログラム以下)への階級転向だ。井上はライトフライ(48.97キログラム以下)、スーパーフライ(52.16キログラム以下)、バンタム(53.52キログラム以下)の3階級を制覇し、次は自らも公言しているようにスーパーバンタム級転向で4階級制覇へと突き進むシナリオが既定路線となっている。
スーパーバンタム級で待ち構える強者は、WBC、WBO世界統一王者ステファン・フルトン(米国)だ。井上より1歳年下で今年7月に28歳を迎える統一王者の戦績は21戦全勝(8KO)。ボクシングスタイルは井上と同じオーソドックス。KO率は高くないものの、巧みなステップワークとパワフルかつスピーディーなパンチを的確にヒットさせダメージを蓄積させつつ試合の主導権を握る。無類のスタミナを誇るのもストロングポイントだ。
昨年6月に出演したポッドキャスト番組でスーパーバンタム級転向が濃厚視される井上について「俺がヤツと試合をすれば圧勝する。俺には小柄すぎる。優秀なファイターだが、ヤツが俺より優秀ということは断じてない」と挑発したことも記憶に新しい。
一方、もう1人の統一王者が、WBAとIBF世界王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)だ。戦績は10戦全勝(7KO)を誇り、6月25日にはテキサス州サンアントニオで指名挑戦者のWBA同級1位ロニー・リオスと3度目の防衛戦が組まれているサウスポー。昨年4月にはウズベキスタン・タシケントで当時IBF同級暫定王者で日本の岩佐亮佑に5回TKO勝ちを収め、初防衛も果たしている。基本的技術の高さに加えスタミナ、フィジカルの両面で優れ、総合評価は高い。
「真の実力を見せ切っていない」との指摘も
これは余談だが、元WBO世界バンタム級王者の33歳「悪童」ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)が執拗に井上を挑発し、対戦を熱望している。バトラーとの防衛戦が組まれていた今年4月、開催地の英国で禁止されている試合直前のサウナ減量を行って試合は中止に追い込まれるなど度重なる素行の悪さを問題視され、WBOから同王座はく奪。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、20年4月25日にマッチメイクされながら結局中止になった3団体統一戦で対戦するはずだった因縁の相手・井上を無冠になった今も未だ追いかけ回している。そこまで本気で言うならカシメロは自らもスーパーバンタムに階級を上げて世界王者になり、井上の視界に入るような存在にならなければこのまま黙殺されるのがオチであろう。
井上には「まだ50%程度しか真の実力を見せ切っていない」との指摘もあり、秘められたポテンシャルの高さと引き出しがまだまだ隠されているようだ。おそらく異論のほうが多いとは思うが、個人的には口うるさいカシメロと今後どこかのタイミングで対戦し、そして蹴散らしたうえで「ブチ切れるリアルモンスター」の新たな一面も見てみたい気がしている。
世界の強者を相手に命がけで戦う日本のリアルモンスターの生き様は、今の厳しい時代を乗り越えていくヒントにつながるかもしれない。世のビジネスパーソンも井上の今後の戦いぶりにぜひ注目していただきたいと思う。(文中敬称略)