2024年4月19日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年6月13日

 アンダマン海とシャム湾(=タイランド湾)を結ぶクラ地峡における運河建設、中国の宇宙開発拠点――南タイを舞台に中国が構想する巨大プロジェクト計画を頭から否定するようなことはしない。中国訪問を重ねタイ中友好の象徴的存在であったシリントーン王女に加え、最近ではワチュラロンコン国王も中国訪問に前向きな姿勢を示しているとの報道もあるほどだ。

 さらに6月1日、プラユット・チャンオチャ首相はラオスのパンカム・ヴァパヴァン首相をバンコクに迎え、両国の戦略的協力関係を確認すると同時に、東北タイにおける鉄道建設・整備によって両国の鉄道ネットワークの新機軸に据えることを表明している。タイ側が目指すのはラオスを経由した中国との鉄道ネットワークであることは明らかだ。

日本はASEAN各国の国情把握と関係構築を

 このようにタイの例に見られるまでもなく、他のASEAN諸国もまた自らが置かれた地政学上の優位性を最大限に引き出すことで、中国との関係構築を模索していると考えるべきだろう。やはり「過去50年間,東南アジアにおける安全保障のモノサシとなってきた多くの協定は,中国共産主義者の拡大に対する防波堤として立案されてきた。これまで米国を地域の安全保障の要とみなしてきた東南アジア諸国は,今や北京との関係強化の必要性を主張するようになってきた」(Donald Greenlees, “ASEAN Hails the Benefits of Friendship with China”, International Herald Tribune, Nov. 1, 2006)という基本構造を、無視することは出来そうにない。

 ここで、ミャンマーで長期独裁政権(1992~2011年)を担ったタン・シュエ将軍(前掲)が思い浮かぶ。一連の親中姿勢を欧米から強く批判されるや、彼は「中国が好きだから仲よくしているのではない」と言い放ったと言うのだ。(べネディクト・ロジャーズ『ビルマの独裁者 タンシュエ 知られざる軍事政権の全貌』白水社 2011年)

 この思いは、おそらくASEAN諸国の指導者に共通するものではないか。誰もが「中国が好きだから仲よくしているのではない」だろう。

 岸田首相は「アジアで唯一のG7構成国」を強調する。ならば、ASEAN諸国の個々の国情を十分に勘案したうえで、IPEFが除外するミャンマー、ラオス、カンボジアを含む大きな外交的な塊としてのASEANとの関係構築に向かうべきだ。中国包囲策を軸とするバイデン政権の当面の中国政策に傾斜する余り、わが国はASEAN諸国を反中・親中によって腑分けすべきではない。中国とも、もちろん米国とも違った形のASEAN外交を進めることこそが、ASEANの独自性を高めることにつながり、延いては日本にとっての大きな外交資産になるはずだ。

 ――こう考えるからこそ、やはり「岸田ノート」の〝開示〟を願いたいところではある。

   
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