2022年12月5日(月)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年6月14日

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渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

 ウクライナからの穀物等の輸出再開に向けて、関係国の協議が続いているが、黒海での船舶の安全航行などの仕組みについては、ウクライナ、ロシア、トルコなど関係国は合意には至らず、2022年産の収穫穀物の在庫がさらに積み上がって、滞留する状態は解消していない。現地からの情報では、鉄道に振り替え欧州諸国へ輸送という方法も、レール幅の違い、積み替え、台車の交換、通関・検疫などの課題が多いと指摘する(6月10日、日本農業新聞)。

 しかし、世界は手をこまねいているわけにはいかない。事態は深刻なのだから、関係国の協力で<当面・中期・将来>と一歩でも半歩でも「改善対策」を講じていかなければならないと考える。

 以下、考えられる対応策を列記してみたい。とくに流通・物流ルートの多元化、多様化は、日本の「食料安全保障」を考える上でも大きなポイントでもある。

多角化と競争で輸送のリスクヘッジ

 バルキーな(かさばる)穀物の大輸出国・米国の輸送と輸出の現状を農林水産省の「食料安全保障月報」から拾ってみた。これは小麦の例である。

 太平洋岸北西部へは鉄道で(シェア35%)、メキシコ湾(ガルフ)へはミシシッピ河のバージで(29%)、鉄道・トラックでテキサス~ガルフへ(27%)とバランス状況であって、互いに競争関係にある。ガルフからは、パナマ運河経由でアジア太平洋地域へも運ばれる。

 その際の「鉄道」だが、筆者の経験では、「ユニットトレイン」と称する貨物車は100トン車x100両で1ユニットが1万トン、ミシシッピ河のバージは1群が12~13隻で2万トン超、また、パナマ運河の通過サイズは「パナマックス」5万トンである。繰り返しになるが、流通・輸送ルートは、多様化と競争を通じたリスクヘッジが望ましい。

米国内で貨物列車のイメージ(itsajoop/gettyimages)

かつては日本も実行

 日本が明治時代に入って、富国強兵で鉄道網を整備しようとしたとき、主要幹線の「東京―関西ルート」についての論戦があった。効率、コスト重視の東海道か、海からの外敵の攻撃を避ける内陸・中山道ルートかと。国防=安全保障の観点からである。

 また、貨客を分けて、貨物専用線を整備していた。例えば、現在の武蔵野線は元々は「東京外環貨物線」(山手貨物線の代替線)、横須賀線が走る線路は軍港都市横須賀、陸軍観音崎砲台を結ぶ線路+東海道の貨物線+総武本線と、軍事と貨物の兵站を担っていた。いざというときのことを考えて備えるのが「安全保障」だ。

 最近は、貨物専用線を「乗客向け路線」へと転用整備してきたが、平時はよいとして、「コストパフォーマンスが悪い」などといって、「廃線」にする動きには、これで「安全保障」は大丈夫だろうかと思ってしまう。安保費用は織り込むべしだろう。

 近年は、経済・効率の重視で、サプライチェーンの中断リスクに対して甘くなっているのではないか。もう一度、考え直してしかるべきだろう。気象の災害、戦災に備えた複数ルートの確保が肝要である。

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