投票環境の向上は
若者の投票率上昇に寄与する?
若者の政治離れが進む中、各地ではさまざまな取り組みが行われている。
愛知県豊田市では、2019年の県知事選で路線バスを利用した移動型の期日前投票所を採用した。朝夕のラッシュ時間帯以外で車両の有効活用を望んだ名鉄バスと組み、官民協力の下で実現した。市内3つの大学に3日間設置することで若者の投票率向上を目指し、以降も計5回の選挙で実施したが、現在は中止しているという。
同市選挙管理委員会(以下、選管)の梅村浩明氏はその理由を「コロナ禍での感染症対策が十分にできなかったこともあるが、根本的には思っていたより若者の投票率が伸びなかった」と打ち明ける。投票に訪れたのは延べ1258人、うち学生は56人と5%に満たなかった。だが、「これもチャレンジしたからこそ分かった結果。現在は戦略を練り直している」と前を向く。
対象を明確にした動きもある。茨城県日立市は昨年の衆議選で初めて市内8つの高校に移動型期日前投票所を設置した。高校生の有権者計641人に対し、投票したのは123人。同市選管の川崎俊志氏は「想像より少なかったことは残念だったが、上級生の投票する姿を見た下級生から『来年は参加したい』という声があった。裾野が広がることこそ、この取組みの意義。今後も継続することにした」という。
千葉県富里市では、選挙権が18歳に引き下げられる前の11年から、市内の高校生に選挙に従事してもらう取り組みをしている。高校に協力を仰いで従事者を募集し、これまで延べ108人の学生が本人確認や投票用紙の手交などに従事した。同市選管の鵜澤陽氏は「学生のうちにこうした経験をすることで、少しは政治や投票を身近に感じられるはず。また、投票所の雰囲気も明るくなり、一般の方も投票所に足を運びやすい空気が出る」とその効果を実感する。
街の特性を生かそうと声を上げたのが茨城県つくば市だ。今年3月、スーパーシティ型国家戦略特別区域に指定され、インターネット投票を目玉の一つとした。これが全国に広がれば、スマホやパソコンなどの端末から投票でき、時間的コストの軽減が期待される。同市スマートシティ戦略課長の中山秀之氏は「つくば市は研究機関などが集積しており、デジタル機器に対する苦手意識を持つ人が比較的少ない。こうした特徴を生かし市民の『選択肢』を増やしたい。失敗は恐いが、システムトラブルなどのリスクも認識したうえで挑戦する」と意気込む。
情報法に詳しい明治大学の湯淺墾道教授は「学校、アルバイト、仕事、子育てなどで多忙を極める若い世代の投票率向上が期待できる」と評価する。同時に「離島に住む住民や移動コストが高い高齢者の利便性向上、長期的には投票用紙の輸送コストの削減にも寄与する」と分析する。