2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2022年6月27日

BTS徴兵への韓国人の本音

 韓国では男性が集まると軍隊とサッカーの話になると言われるほど兵役は身近な存在で、女性にとっても息子や兄弟、恋人が入隊することになるため、兵役は避けて通れない問題であることに変わりはない。だからこそBTS法をめぐり国論を二分しするまでに議論が伯仲した。

 では、韓国人はBTSの兵役問題について、どのように考えているのだろうか。世論調査会社の韓国ギャラップが今年4月に発表した調査結果によれば、国威発揚に貢献した大衆文化芸術家を兵役特例の対象に含めることについて、賛成が59%、反対が33%だった。調査結果の詳細を見ると、男性の賛否は60:35、女性は57:31であり、男女間での差はわずかしかない。

 むしろ驚くのは軍隊生活の記憶が新しい30代男性では賛否が81:18と、BTSの兵役免除を望む声が圧倒的に多いことだ。その理由は推測するしかないが、兵役特例の不平等、有体に言えば〝親ガチャ〟による格差への反発が見て取れる。

 少し詳しく解説してみよう。芸術・体育要員に指定され、ボランディア活動などを時折行いながら34カ月が過ぎると兵役を終えたとみなされる兵役特例の対象者は、スポーツはオリンピック3位以上とアジア大会優勝者、芸術はクラシック音楽とバレエ、韓国伝統音楽の3区分42大会で2位以上となっている。

 いずれも稀に見る才能と弛まぬ努力がなければなし得ない偉業だ。しかし、こと芸術については、習い事を続けることができるだけの経済的余裕がなければ、才能を開花させることが難しいことも事実。日本でもピアノやヴァイオリン、バレエを習っている子どもたちは恵まれた家庭環境にあると言っても過言ではないだろう。

 韓国人は恵まれた家庭環境で育った芸術家よりも、裸一貫で栄光を掴んだアスリートのサクセスストーリーへの共感が強い。実はギャラップは過去に何度か兵役特例についての調査を行なっているが、それはすべてスポーツに関するものだ。

 2002年サッカーワールドカップ4強入りでは88%、09年ワールドベースボールクラシック(WBC)準優勝では71%、12年ロンドンオリンピック銅メダル以上では90%、19年FIFA U-20ワールドカップ準優勝では59%が選手の兵役特例に賛成している。このように過去の調査結果から、成り上がり者への共感と寛容が高い傾向が見えてくる。

 国民の過半数がBTSに兵役特例を認めている事実は、親ガチャ格差への反発とサクセスストーリーへの共感、そして何よりもBTSが韓国人の〝優秀性〟を世界に知らしめたことへのサティスファクションがあることが分かるだろう。

韓国で蔓延する男性による女性嫌悪

 BTSの兵役問題を見る上でもう一つに重要なことは、この問題が韓国の深刻な男女対立「イデナム・イデヨ」を大きく刺激したことだ。イデナムとは、20代男性(イーシップテ ナムジャ)と20代女性(イーシップテ ヨジャ)を意味する。

 韓国は伝統的な父系社会で、男性、特に血統を伝える父親と長男が極めて優遇され権威を持っている。ゆえに若い女性の疎外感と焦燥感は、日本の女性以上に強い。

 そのような韓国にあって、政治は男女格差を埋めるべく努力してきた。金大中大統領は01年に女性省(現・女性家族省)を設立、女性の社会進出を促し、人権や女性問題を扱う市民団体へ補助金を支給した。その結果、どうなったのか。女性の社会進出が急速に広がる一方で、男性の女性嫌悪(ミソジニー)も歩調を合わせるかのように急拡大した。

 そして、今や〝フェミニズム先進国〟となった感がある韓国では、若い男性を中心に「男が軍隊に行っている間、女は就職活動している」という不満が叫ばれている。その背景には「軍加算点制度」が廃止されたことがある。


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