7人組の韓流アイドルグループ「BTS」が今月14日、公式YouTubeチャンネル「BANGTANTV」で〝活動休止〟を伝えたことが韓国や日本のみならず世界中で話題になった。その後、BTSが所属する「HYBE」がメディアに向けて活動休止ではないと釈明したが、海外メディアを含む多くのメディアは一部メンバーの兵役の期限が迫っているからではないかと報じている。
だが、筆者はBTS活動中止騒動の背景には兵役問題にとどまらない韓国社会の裏事情が見え隠れしていることを指摘したい。
韓流アイドルを特別扱いするBTS法
韓国で成人男性に兵役の義務(徴兵制)が課せられていることは多くの日本人も知るところだが、その実態についてはあまり知られてない。兵役の根拠は韓国憲法第30条「すべての国民は法律の定めるところにより国土防衛の義務を負う」にあり、兵役法でその詳細を定めている。
その内容を簡単に説明すると、男性には兵役の義務があり、女性は志願によって軍人になることができるというものだ。兵役判定検査、いわゆる徴兵検査で身体基準を満たすと判定された男性は20歳から28歳の誕生日を迎える前に入隊しなければならず、多くの男性は陸軍で18カ月、海軍で20カ月、空軍で21カ月いずれかの兵役に就く。
そのような韓国で2020年8月にBTSの楽曲「Dynamite」がビルボードのヒットチャートで1位を獲得するや、韓国の大衆文化を世界に広めた貢献に対して兵役を免除すべきという声が強まり、同年12月には韓流スターの入隊を満30歳(厳密には30歳になる歳の12月31日)まで遅らせることができる兵役法改正案が成立し、21年6月から施行された。
それまで入隊延期はオリンピックのメダリストや芸術コンクールの上位入賞者にしか認められなかったが、これにより「大衆芸能分野で文化体育観光大臣が国威発揚に顕著な功績があると認めた者」、つまりBTSが加わった。20年12月で満28歳になる最年長メンバーであるJIN(ジン)の入隊延期を念頭にした法案であったためBTS法と呼ばれるようになったのだ。
しかし、BTSの兵役をめぐる騒動はこれで終わりにはならなかった。兵役法改正案が成立したことにより入隊延期となったJINだが、このままでは2022年末までに入隊しなければならない。そこで第2のBTS法が21年11月に与野党の議員からそれぞれ提出された。その内容はBTSのような大衆文化芸術家を兵役特例(事実上の兵役免除)の対象に含めるように兵役法を改正するというもの。
第2のBTS法は今年3月の大統領選挙の争点の一つとなりながらも、現在まで成立していない。今回のBTS活動休止騒動の背景には、JINが今年年末まで、SUGA(シュガ)が来年中に入隊しなければならないという事情が大きく影響していたことは間違いないだろう。