2024年4月27日(土)

世界の記述

2022年7月5日

総統自賛も所得格差で白けムード

 台湾経済は、データ上は日本人の目には、まぶしいほどだが、社会からは高揚感がまるで感じられない。蔡英文総統は5月に「今年は台湾の1人当たりのGDPが、19年ぶりに韓国を追い抜く」と胸を張ったのだが、やけに白けた空気が広がった。

 台湾の多くの庶民にとって、豊かさの実感が乏しいためだろう。一部メディアが形容したように「最近2年間、輸出関連や証券投資家、不動産オーナーなら天国。飲食店のオーナー、賃貸マンション住み、副業ゼロの給与生活者は地獄」。好景気の恩恵を受けた人々が一部に偏っていて、しかも、ますますひどくなっている。

 台湾人の圧倒的な多数派が、所得格差を深刻に感じていることは、世論調査の結果も明らかだ。

 超党派の非営利団体である、台湾民意基金会が今年1月末に発表した世論調査によると、「台湾の貧富格差問題を深刻と思うか」の問いに対し「非常に深刻」が40.8%、「深刻」が38.4%で、合わせて79.2%に上った。「あまり深刻でない」、「少しも深刻でない」を合わせても16.7%。台湾人にとって所得格差はもはや常識といってよい。

 国発会のデータでは、所得格差はゆるやかではあるが、年々悪化している。所得階層別に最高の20%と最低の20%の層を比べると、20年は世帯が6.13倍、個人が3.84倍。1976年は、世帯所得では4.18倍で、格差は大きくなっている。

 不平等を示すジニ係数は、1に近づくほど所得格差が拡大する。0.5を超えると是正が必要とされるが、台湾は既に0.35。しかも、緩やかながら悪化が続いている。

産業の「M字化」で格差固定化

 台湾の所得格差の背景と指摘されるのが、台湾産業と賃金の「M字化」だ。半導体、自転車、インターネット、サイバーセキュリティは海外からの受注が相次ぎ、投資も拡大する一方、伝統的な製造業やサービス業は景気も賃金も低迷したまま。「M」のように両極端がそそり立つ構造が固定化している。

 行政院主計総署によれば、21年の台湾人1人当たりの平均月給は5万5754台湾元(25万4100円)で悪くないが、台湾庶民の実感とかなり隔たる。求人求職サイトの1111人力銀行によれば、半導体産業など、台湾のトップクラスの賃金に引きずられているため。

 同行によると、20年現在、全雇用者の月給の中央値は約4万2000台湾元(約19万円)で、全雇用者の半数は年収が51万台湾元(233万円)に届いていない。この方が台湾庶民の実感に近いという。

 しかも台湾の賃金は地域差も大きい。台湾各市・県で、平均年収が最高なのは新竹市で97万2000元(443万円)、2位は台北市で86万3000元(393万円)。3位は新竹県の85万8000元(391万円)。他の県市の平均年収は70万元(317万円)に届かず、10県市は60万元(272万円)以下だ。

 賃金で台湾首位の新竹市は、TSMCの本社所在地だ。首都の台北市と並んで平均年収が他を遥かに上回るのは、産業構造が関連しているのは明らか。ハイテク製造業に偏った産業構造の「M字化」が、地域格差をもたらしている。


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