産業構造の「M字化」は、労働時間の差にも現れている。20年1~3月期には、製造業がサービス業より労働時間にすると2倍近く仕事があった。21年の平均でも、製造業と毎月の労働時間に15時間近い差がみられた。
しかも、台湾のハイテク製造業偏重は加速している。米中貿易戦争や新型コロナウイルスの感染拡大で、世界のサプライチェーンに占める台湾ハイテク製造業の地位が向上しているためで、さらに多くの人と資金を飲み込んでいる。
台湾政府も、TSMCなど半導体産業を「護国の神山」と呼んで、特別扱いだ。だが、このような偏りは、所得格差のみならず台湾経済の脆さにつながりかねない。
半導体依存なら韓国が捲土重来
台湾のシンクタンク、中華経済研究院のウエブサイトで、王健全副院長が論評を掲載し、1人当たりGDPで台湾が韓国を抜くのはめでたいが、リードを維持できる保障はないと指摘した。それに台湾の快挙は、外国為替相場の影響が無視できない。台湾元は21年、米ドルに対し2.9%上昇したのに対し、韓国が9%下降しているからだ。
王副所長によると、韓国経済は台湾よりも裾野が広い。台湾が半導体とIT に依存しすぎているのに対し、韓国は自動車、バイオテクノロジー、映画や音楽などの文化・コンテンツ産業など、投資先がバラエティに富んでいる。
東南アジア諸国連合(ASEAN)への投資でも、台湾の先を行っている。台湾も、半導体やIT以外にも投資を拡大しないと、すぐさま韓国の逆転を許すことになる。
そして台湾経済で、GDP の7割を生み出し、就業人口の6割を占めるのは実はサービス業だ。だが、王副所長によると、台湾のサービス業は政府のさまざまな規制を受け、成長が妨げられている。台湾の貯蓄は10兆台湾元(45兆円)、保険会社が持つ資金も20兆台湾元(90兆円)を超えるのに、不動産や海外の証券投資などに金が流れ、うま味が少ないサービス業に、資金が向かおうとしない。
サービス業でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、付加価値を上げ賃金の引き上げにつなげる必要がある。王副所長は、例えば高齢者介護も、従来の「老人ホーム」のイメージを覆して高級ホテル並みのサービスを提供し、産業の付加価値を上げるなら、医療機器産業の発展や心理カウンセラー、管理栄養士らの活躍の場が広がるとしている。
台湾庶民が「韓国超え」を喜べるのは、半導体一本足の構造を改めた時かもしれない。自動車産業に依存し過ぎ、所得の低迷に悩む日本にとり、台湾経済の現状は全然他人事ではない。