ロシアが4月末、ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給停止を通告したことは、台湾を震撼させた。台湾が輸入する天然ガスの10%はロシア産。万一、供給が止まれば、慢性的な電力の需給逼迫に悩む台湾は、一気に危機を迎えることになる。
台湾経済部(経済省)エネルギー局によると、2021年の電源構成は83.4%が火力発電。うち石炭が44.3%、天然ガスが37.2%だ。天然ガスのうち9.7%を占めるロシアは、台湾にとって豪州、カタールに次ぐ第3位の供給国。石炭も14.6%がロシア産で、豪州、インドネシアに次ぐ第3位。エネルギーの対露依存度は高い。
台湾政府は2月のウクライナ侵攻後、直ちにロシアへの制裁を発表。4月には経済部が、対露輸出を禁止する電子製品などハイテク57品目のリストを公表した。ポーランドなどと同様、ロシアから「非友好国・地域」に指定されており、天然ガスなどの供給停止の「資格」は十分だ。
元々、台湾は近年、電力逼迫に苦しんでいる。高い経済成長率や、半導体工場の増設、米中対立を背景とした台湾企業の域内回帰が、本来はめでたい話だが、電力状況をさらに厳しくしている。
台湾では昨年5月と12月に計3回の大停電が発生。今年3月にも、発電所の事故をきっかけに全国規模の停電が起きた。停電の頻発は、送電網の脆弱さや管理の杜撰さのほか、蔡英文政権が、脱原発にこだわり原子力発電を縮小する一方、頼みとする再生可能エネルギーのシェアが伸び悩んでいることも原因とみられている。
蔡政権は、25年に原発稼働ゼロ実現の目標を変えておらず、この年の目標電源構成のうち再エネの比率は20%。経済部エネルギー局は今年初め、25年の再エネのシェアが目標を下回る15.2%になるとの見通しを示したが、専門家からは「絵に描いた餅。多くて13%」の指摘もある。
政府は、再エネの不足分を天然ガス火力で補う計画だが、台湾に2カ所ある液化天然ガス(LNG)の陸揚げ施設は、既に能力が限界。3カ所目は海藻類を繁殖させるための「藻礁」保護を理由とする反対運動で建設が遅れ、完成は早くて25年となる。
しかも天然ガスは、価格急騰のほか、ロシアの供給中断リスクが加わった。経済部は、台湾のLNG調達は長期契約が主体で、短期的な価格変動の影響はなく、調達先の多角化を進めており、問題ないと説明しているが、企業などの不安は拭えていない。
台湾の電力の安定供給は、原子力発電の活用が最も現実的で、経済界からは、既存の原発2カ所の稼働延長が必要との声が高まっている。さらに、完成間際で建設が止まっている第4原発(新北市)が稼働すれば、電力逼迫は一挙に解決する。しかし、国民の原発アレルギーは強く、昨年12月の住民投票で第4原発の工事再開は否決されており、実現は当面ありえない。電力供給は、天然ガス頼みの危ない綱渡りが続きそうだ。
日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。