世界の記述

2022年4月24日

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井上雄介 (いのうえ・ゆうすけ)

ジャーナリスト

早稲田大学法学部卒業。1989年、天津南開大学に留学。通信社記者を務めた後、経済メディア編集者としてシンガポール、上海、台北、広州で勤務。衆議院議員政策秘書などを経て現在に至る。

zabelin / NatanaelGinting / iStock / Getty Images Plus

 ロシアによるウクライナ侵攻で、中台の緊張に世界的な注目が集まる中、台湾で徴兵制の復活に向け検討が始まった。立法院法制局が議会を代表して行政府に対し、徴兵制の復活を提案。台湾国防部(国防省)は来年初めに結論を出す方針を明らかにした。

 台湾の兵役は2008年に1年に短縮されたが、18年には「徴兵志願兵併用制」を導入し、事実上、徴兵制を停止。1994年以降に生まれた男性から、4カ月の軍事訓練を受ける義務に改めた。

 米政府系放送局ラジオ・フリー・アジアによると、与党民進党の蔡適応立法委員(議員)は「4カ月では短すぎ、歩兵になるのも難しい」と話す。台湾国防部傘下のシンクタンクによると、4カ月間では、工兵や戦車兵など専門訓練の時間がほぼない。同国防部は、専門訓練に時間を割くため、早ければ来年末にも訓練期間を9~12カ月に延長したい考えだ。

 徴兵制の復活は、世論の支持もある。ヤフー台湾が3月に行い、約2万人が参加したネット世論調査は、軍事訓練の期間を1~2年に延長することに76.9%が賛成。女性の参加への賛成も69.4%を占めた。民進党の陳水扁元総統が、2000年の台湾総統選で、徴兵制の廃止を公約に掲げて当選したのを思えば隔世の感がある。

 中国の軍事的圧力の高まりから、台湾では近年、徴兵制への支持率が年々上昇していたが、ロシアの一方的な武力侵攻後のウクライナ人の激しい抵抗は、台湾人の心を刺激したようだ。台湾戦略研究学会など民間2学会が3月初旬に行った、「ウクライナ戦争と台湾海峡の安全」と題する世論調査で、中国が台湾に軍事行動を起こした場合、「台湾防衛のため戦いたい」との回答が70.2%となった。

 台湾メディアの風伝媒によると、台湾の予備役は19年、米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)の手配で訪台した米軍視察団から「見かけ倒し。戦力として無効」と酷評を受け、慌てた蔡英文政権が、充実に取り組んできた。昨年12月末には、予備役部隊の管理・運営などを任務とする「全民防衛動員署」が発足している。

 なお、この世論調査で「中台戦争が起きた時、米国が援軍を出す可能性」について、「ある」が42.7%、「ない」が47.3%。昨年10月に行った調査では「ある」が55.1%で、米国への信頼が低下している。米国が頼りなくとも、台湾人は自力で戦う覚悟を固めているといえそうだ。

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■プーチンによる戦争に世界は決して屈しない
Part 1 元NATO軍最高司令官に聞く 世界の行方と日本の役割/ジェイムズ・スタヴリディス
Part 2 〝プーチンの戦争〟の先にはどんな「出口」が待っているのか?/小泉 悠
Part 3 ロシアの行動を注視する中国 日本の安全保障「再構築」を/小谷哲男
Part 4 日米で「核の傘」信頼性強化を 立ち止まっている猶予はない/神保 謙
Part 5 東欧が見てきたロシアの本性 〝最前線〟の日本は何を学ぶか/マチケナイテ・ヴィダ
Part 6 一変したエネルギー安全保障 危惧される「石油危機」の再来/小山 堅
Part 7 脱ロシアで足並み揃わぬEU エネルギー調達の要諦とは/山本隆三
Part 8 「戦争と制裁」で視界不良は長期化 世界はインフレの時代へ/倉都康行
COLUMN 輸出入停止、撤退・・・・・・ 北海道・ロシア交流は厳冬へ/吉村慎司
Part 9 座談会 「明日は我が身」のハイブリッド戦 日本も平時から備えよ
山田敏弘 ×桒原響子×小谷 賢×大澤 淳
Part 10 真実分からぬ報道のジレンマ「あいまいさ」に耐える力を/佐藤卓己
Part 11 失敗した英国の宥和政策 現代と重なる第二次大戦前夜/細谷雄一

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Wedge 2022年5月号より
プーチンによる戦争に 世界は決して屈しない
プーチンによる戦争に 世界は決して屈しない

ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。

もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。

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