ニューヨーク・タイムズ紙も最近、「米国内で起こりつつある民主主義体制劣化の動きに関する取材と報道にこれまで以上に力を注いでいく」との編集局長談話を発表している。
CNNテレビも、独自の調査チームによる『米民主主義の危機』と題するドミュメンタリー特番を作成、今月中旬、3夜連続で放映する。
数々の衝撃的事実が起きていた「1・06事件」
では、具体的に今、米国で何が起こりつつあるのか。
米民主主義体制の変質ぶりについては、トランプ氏が鳴り物入りでホワイトハウス入りした2017年1月当初から、有識者の間で警鐘が鳴らされ始めていた。
しかし、それが頂点に達したのが、世界中に衝撃を与えた熱狂的トランプ支持グループによる21年1月6日の「連邦議事堂乱入・占拠事件」だった。マスコミ界では、事件発生日にちなみ「1・06事件」として、その後も責任追求の執拗な報道が続いている。
「1・06事件」の概要は次のようなものだった:
前年20年11月の大統領選挙で再選を果たせなかったトランプ氏が、根拠のない「選挙不正」「バイデン当選は無効」の主張を繰り返しアピールしたのを受け、各州から呼び集められた過激集団およそ3000人が発煙筒、角棒、盾などを持って、連邦議事堂に窓やドアを打ち壊し乱入、議員席、下院議長室などを一時占拠した。
1月6日は、大統領選挙人による投票結果の最終確認を上下両院協議会で行うことになっており、過激集団はその審議を実力で妨害、議員たちに対する暴行、拉致によりバイデン氏の当選を阻止するのが目的だった。場内は爆竹や興奮した集団の怒声で騒然となり、居合わせた議員たちも自分の座席の下に身を隠す、逃げ惑うなど大混乱となった。上院議長席にいたペンス副大統領も警護官に囲まれながら緊急避難した。
約3時間半後、議会警察隊、ワシントンDC機動隊との乱闘の末、事態は収拾され、最終的に、ペンス副大統領が議長席に戻り、「バイデン氏当選」を公式宣言した。この間、死者5人、重軽傷者850人(うち警官138人)を出す米議会史上最悪の惨事となり、検挙者数も950人に達した。
1週間後、下院本会議は「事件教唆」のかどでトランプ大統領を弾劾、上院でも共和党議員7人を含む過半数がこれを支持したが、「有罪」評決に必要な3分の2の票が得られず、最終的に「無罪」となった。
しかし、その後も下院に設置された「1・06真相究明委員会」が、過激集団首謀者、トランプ大統領側近、共和党議員スタッフら千人近くの関係者を証人喚問、真剣な真相解明に取り組んできた。
その結果、先月末までの調べで、以下のような驚くべき事実が明らかになった:
・20年11月8日、選挙結果判明後、トランプ氏は連日のようにホワイトハウス執務室にこもりきりで、マーク・メドウズ首席補佐官ら少人数の側近らと、選挙結果を覆すための具体的戦略について長時間にわたり綿密な協議を続けた。
・大統領は、僅差でバイデン氏に敗れたジョージア州開票結果について、「トランプ票」を強引に上積みさせるため、直接、ブラッド・ラフェンスパーガー州務長官(共和)を電話で呼び出し、「何としても自分の支持票を追加で見つけ出せ」と長時間にわたり執拗に要求した。同長官が「違憲行為」だとして拒否し続けたため、大統領は不満そうに電話を切ったが、その直後から、トランプ支持派とみられる匿名の男たちによる同夫人宛ての嫌がらせ、脅迫電話、メールが殺到した。子息の自宅まで何者かに襲撃された。
・大統領は同様に、敗退したアリゾナ州についても、ラスティ・バウワーズ州下院議長(共和)に電話を入れ、「トランプ支持派の別の大統領選挙人団の結成」を強く促した。同議長は「州民に対する背反行為」だとして断固拒否したが、その後、トランプ派の人物らがトラックで自宅前に乗り付け、拡声器で議長を罵倒する録音をボリュームいっぱいに流し続けた。