2024年12月23日(月)

バイデンのアメリカ

2022年7月7日

・事件のあった1月6日当日、両院協議会による大統領選投票結果の確認後、ペンス副大統領が「バイデン当選」を最終宣言するため議会に向かおうとしたが、身辺警護に当たっていたトランプ支持派とみられるシークレットサービスの仲間が一時、「抗議集会の混乱」を理由にリムジンを議事堂にあえて近づけないようにした。しかし、ペンス氏が「次期大統領の当選宣言が上院議長としての憲法上の神聖な任務だ」としてこれを無視、予定通り議事堂玄関にリムジンをつけさせ、議事堂内に入った。もし、ペンス副大統領が警護官の言いなりのままホワイトハウスに引き返していたとしたら、「20年大統領選挙結果」は最終確定せず、その後、前代未聞の大混乱が予想された。

・これとは対照的に、議事堂乱入に先立ち、ホワイトハウス前広場での集会にかけ参じた過激グループを鼓舞したトランプ大統領は、いったん執務室に戻り、連邦議会に向かう集団の様子をテレビ中継で見守っていた。しかしトランプ大統領は、短銃や防弾チョッキを着けていた集団の一部が検問にひっかかり、議事堂ビルから警官隊によって遠ざけられたことに怒りを爆発させ、「彼らは自分(大統領)を傷つけるつもりはない。議事堂内に入れさせろ」と側近に注文をつけた。その上で、「自分はこれから彼らに合流する」として議事堂に向かわせるよう要求、いったんは大統領リムジンに乗り込んだが、走行途中で身辺警護のシークレットサービス要員が「安全確保」を理由に議事堂行きを拒否した。トランプ大統領は憤然として身を乗り出し、運転席の警護官からハンドルを奪おうとして一時はもみ合いになった。しかし、大統領リムジンはそのまま、ホワイトハウスに引き返した。

・トランプ大統領は大統領選投票日の夜から翌日にかけて、メドウズ首席補佐官、ルドルフ・ジュリアーニ専任弁護士らと協議を重ね、バイデン票がトランプ票を上回った州のうち、共和党が支配するいくつかの州当局に対し、不正があったとの理由で支持票数の「最終認証」を拒否するよう、繰り返し説得に乗り出していた。しかし、これらの州のいずれについても、トランプ陣営が主張する不正の具体的証拠は見つからなかったため、州法の規定に従い、開票結果は予定通り「認証」された。

・大統領はその後も、連邦議会における大統領選挙人による最終投票が行われる21年1月6日までの間に、すでに任命されていた選挙人に代わる〝代替選挙人団〟の結成を検討するようトランプ・シンパの何人かの共和党議員に直接指示。ペンス副大統領がバイデン当選の「最終宣言」をする前に、これらの〝替え玉選挙人〟の票集を加算することで「トランプ大統領当選」を宣言させるという破天荒な策略に関わっていた。

デモクラシーを形骸化させる超法規的政治活動

 先進民主主義国においては、今さら言うまでもなく、選挙における候補者の当落は、有権者投票数の最終集計で決まる。落選者が選挙管理委員会に、結果の否認を強要することなどは論外だ。

 だが、米国では今日、選挙で不利な立場に追い込まれた特定候補が、投票結果に難クセをつけ、当落の逆転を狙うといった暴挙がまかり通ろうとしつつあるのだ。そして、その象徴的例が、大統領自らが陣頭指揮に立った、20年大統領選における巨大不正にほかならない。

 さらに懸念されるのは、「大統領選結果棄却」を企図した「1・06事件」のみならず、その後も、保守派が多数を占める各州において、州知事が選挙運営責任者である州務長官を中立派から保守反動派の人物に交代させたり、州議会で保守派候補が有利になるよう選挙区の書き換えに乗り出すなどの強引な動きが目立っていることだ。

 もし、トランプ氏率いるこうした超法規的政治活動が各州で闊歩し、11月中間選挙に向け極右的政治家が各州議会、連邦議会において議席を増やすことになれば、アメリカ・デモクラシーはますます形骸化を免れなくなるだろう。

 しかし、それだけでは終わらない。立法・行政・司法の「三権分立」そのものが、今や危機に直面しつつある。

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