さらに、今回の参院選のもう一つの特徴は、所属国会議員が少ないか、いない政党・政治団体である「ミニ政党」が乱立し、少なからず票を集めたこと、そしてなかでも新たに参政党が1議席を獲得した点を挙げられる。ミニ政党は、都知事にもなった放送作家として活躍した青島幸男や漫才師のコロムビア・トップらが在籍した第二院クラブが消滅した歴史の中、2019年の参院選において、20年以上ぶりに議席を獲得したれいわ新選組、NHKから国民を守る党が比例代表で議席を獲得した影響もあるとみられる。
こうした旧民主党政権とは一線を画す日本維新の会や「ミニ政党」の躍進は、全国的な基盤を持たない地域政党や小政党に有利な比例代表制を考慮したとしても、代り映えのしない候補者と公約が並ぶ既存野党が国民からの支持を失っている証左だろう。
自民党が一人勝ちに終わった要因とは
今回の参院選が、岸田内閣本格始動後の中間評価だとすれば、岸田内閣とそれを支えた与党は文句なく及第し、野党は落第したということに他ならない。
では、与党が及第し野党が落第した原因はどこにあるだろうか。本記事では、(1)安倍晋三元首相テロ事件、(2)消費税減税・廃止に論点を絞って考察したい。
(1)安倍元首相テロ事件
日本では戦後に限っても度々政治家が狙われるテロ事件が発生しているが、今回のテロ事件は首相経験者が参院選の選挙期間中の応援演説中に、警護の不備をつき、手製とは言え銃によって銃撃され命を落とした前代未聞の凶悪テロ事件である。今後の選挙活動の在り方に大きな影響を与えるのが必至であるため、犯人の動機にかかわらず結果として「民主主義への挑戦」となる重大事件であった。
ところで、テロ事件ではないが、かつて、大平正芳首相(当時)が四十日抗争やハプニング解散の大きな逆風が吹き荒ぶ中、衆参同日選挙戦の最中に心筋梗塞による急性心筋不全で急死した際には、同情票が自民党に集まり、自民党は当初の苦戦予想から一転衆参両院で地すべり的大勝を収め、1974年から6年間続いた与野党伯仲状態が完全に解消した。
また、世界で起きた政治家を狙ったテロ事件が直後の国政選挙に与えた影響に関する実証分析の結果を見ると、もちろん、テロが起きるまでの国内情勢にも依存するが、多くの場合、保守派が勢力を伸ばすようだ。
今回の安倍元首相が凶弾に倒れたテロ事件は自民党の選挙戦勝利にどのような影響を与えたのだろうか。
このテロ事件が有権者の投票行動にどのような影響を与えたのかを測る直接的なデータがないので、大胆な想定を置く以外方法がなく、かなり荒っぽい推測となる。批判が出ることは承知の上で、テロ事件が起きる前までの自民党の議席獲得数をメディアの多くが60議席程度と予測していたことと実際の議席数が63議席であることを考え合わせると、メディアの予測した数字と大きく変わらなかったと言えるだろう。
また、NHKによる期日前投票の出口調査では、これまでも自民党に投票したと回答する人は、最終日に伸びる傾向にあったものの、事件翌日の9日に4ポイント余り伸びた。確かに、テロ事件を受けて、自民党への投票がより増加した可能性はあるものの、選挙結果が大きく変わったというほどの数字ではない。
やはり、多くの有権者は、安倍元首相暗殺というショッキングなテロ事件にあっても、選挙結果を大きく変えるようなパニックには至らず、冷静に投票を行った。つまり、与党が大勝し、野党が敗北した原因としては、安倍元首相がテロに倒れた同情票が集まったからという理解は正しくはない。野党の公約やこれまでの国会対応が有権者により厳しく正当に評価された結果と言える。