IPEFがこれまで米国が提案してきた伝統的な貿易枠組みの構成と大きく異なるのは、4項目のうち、対外貿易交渉を所掌とする米通商代表部(USTR)が担当する項目は「貿易」だけであり、その他3項目は米商務省から提案されていることである。しかもその貿易の中に関税引き下げ交渉という通商交渉の基本事項が入っていない。市場アクセス交渉が入っていない貿易枠組みなどこれまで米国政府が提案したことがあっただろうか。このことは、今の米国政権が秋の中間選挙を控えて、通商問題のいわば「本丸」である関税削減を回避したいと考えていることの証左にほかならない。
商務省が出してきたほかの3項目も十分に整理・精査された提案とは言い難い。「サプライチェーンの寸断」への対処で協力するとあるが、そもそもそれはトランプ前政権の所業ではなかったのか。インフラ支援で途上国への協力を提案しているが、脱炭素で途上国をどこまで巻き込むことができるのか、その目途はたっていない。税制と反汚職をセットで提案している点もその理由付けが不明確で唐突な印象を受ける。そして、最大の欠陥はルールメイキングを途上国と共に行うために必要なインセンティブを全く提供していないことだ。これでは単に「お話し合い」に終始し、有効な法的拘束力を持ったルールの制定は望むべくもない。
関税削減のないIPEFでは
参加国にメリットは少ない
バイデン氏が副大統領時代に進めたTPPとの最大の違いは、……
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