日本の地方交付税交付金制度は、中央集権を進める上で大いに機能してきた。江戸時代は藩ごとの財政自立が前提で、江戸幕府の力が衰えた幕末には各藩が競って産業振興や貿易などに力を入れた。藩の力を付けるには財政力を付けることが先決だったからだ。
ところが、地方交付税が機能するようになって、地方自治体の「国頼み」はどんどん強くなった。自治体の人たちが「自立は無理だ」と諦めた状態こそ、中央集権の完成状態と言ってもいいだろう。財政状態が良くなれば不交付団体となって国からのカネが来なくなる仕組みは、自助努力によって財政を改善しようというインセンティブが働かない。努力せず、国におぶさっている方が自治体経営としては楽なのだ。
景気の低迷で不交付団体から交付団体へと転落する自治体が多い中で、12年度に不交付団体となった自治体が1つだけあった。山梨県の忍野村。富士山の麓、忍野八海などがある観光地として知られる。村の11年度の行政コストは42億円余り。これに対して地方税の収入が36億円あった。補助金などを加えると黒字になったのだ。
もちろん観光も村の財政を支える重要な産業だが、もう1つ大きな要因がある。ロボットなどで有名なファナックの本社が村内にあるのだ。本社があることによる自治体の税収面でのメリットは非常に大きい。
東京都が都道府県唯一の不交付団体なのは、多くの企業が本社を東京都内に置いているからだ。大阪市が税金の多くが他の地方に流れていると文句が言えるのも、大阪市内に本社を置く企業が周辺地域に比べて圧倒的に多いからに他ならない。
これまで地方自治体は大企業の工場誘致に力を注いできた。雇用が生まれることを第一に考えてのことだ。だが、地方自治体が自立を考えるなら税収増に直結する本社地を誘致するのが一番だろう。もっとも、地方が大企業の本社を誘致する制度上の武器がない。自治体によって法人税率を変えることができるようにするなど、抜本的な制度改正が必要だろう。だがそれは明治以来進めてきた中央集権政策との決別を意味することにもなる。
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