今年夏の岐阜県大会を25年ぶりに連覇。2年連続の甲子園出場を決めたこともあり、県岐阜商に対する当初の期待値は地元を中心に熱を帯びていた。ところが組み合わせ抽選会終了後の8月3日夜、チームは思わぬ事態に直面する。選手が体調不良を訴え、翌4日にはチーム内に感染が拡大。大会本部から集団感染と判断され、6日には計14人もの陽性者が確認された。
これまでであればコロナ禍の夏の甲子園大会で集団感染と判断された場合、その代表校は大会参加を辞退せざるを得なくなるケースが〝通例〟だった。だが、同6日に日本高校野球連盟や朝日新聞社など主催者側の大会本部は集団感染と判断したチームも登録選手の入れ替えなどで出場できるように新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインを以下の通りに改定。
「試合前の72時間以内に、当該チームの登録選手ら全員の陰性が確認された場合、当該試合への出場を認める」「緊急対策本部にて当該チームの感染拡大に歯止めがかかり、かつ感染拡大防止措置が講じられていることを認められた場合、一部の登録選手らを入れ替えることができるものとする。(入れ替えで登録される選手は試合前72時間以内に陰性の確認がとれていなければならない)」との項目を新たに設けたことで、一転して光明が差した。
県岐阜商と同じく複数の体調不良者が出て新型コロナウイルスの集団感染と判断された九州国際大学付属(福岡)にとっても、明徳義塾(高知)との対戦が組まれる大会第6日(8月11日)第3試合を前に大きな朗報となったのは言うまでもない。
県岐阜商を率いる名将の鍛治舎巧監督は開幕当日にもかかわらず大会本部が前例のない「大英断」を下したことに「異例の対応。何とか参加できる道はないかと検討してもらい、心から感謝申し上げたい。本当にありがたい」と繰り返し、謝意を口にしていた。
そして初戦敗退後にはあらためて、出場を決めた理由について「大会前に2度辞退しようかと自分から言い出しかけたが(新型コロナに感染せず)残っている3年生の顔が浮かんだ。彼らが頑張っているので、自分から幕を引くわけにはいかないとチームを編成して、作り上げていこうと思い直した」と明かしていた。
急造チームで臨み、初戦で散ったものの「次の主力を張る選手たちがいい経験を積んでくれた。必ず次につなげてくれると思う」とも述べ、非常に前向きな姿勢を貫く指揮官の振る舞いが印象的だった。
インターハイで続出した「別の涙」
コロナ禍になって約2年半。その間、3年のみの短い学生生活の中で部活動に励む高校生たちが感染拡大によって大会参加が叶わず涙を流す場面を実際、アマチュアスポーツの取材現場で数多く目にしてきた。だからこそ集団感染に陥った代表校への救済措置を考案し、迅速に今夏の甲子園で実施させた大会主催者の判断はとても素晴らしいと思う。
その一方で同じ高校スポーツでも新型コロナ感染の対応で競技や大会の既定が大きく異なり、明らかな「差」も顕著に現れ始めているのは気がかりだ。