「日本と外国で国語(母語)教育にこれほどまでに大きな違いがあるとは思いもよらなかった」
トヨタ自動車で長年、海外駐在を経験してきた星野雄司氏はこう振り返る。中学・高校とベルギー・ブリュッセルで過ごした娘が帰国後、日本の大学に入ったときのことだ。
娘から、「ディベートで感情的になったり、リポートをまとめることに苦労していたりする学生を見て不思議に思った」と聞かされた。そこで知ったのは「欧米では国語をスキル(技術)として学んでいる」ということだった。
「部下や同僚の外国人が、プレゼンや交渉が上手だったのは、ランゲージアーツ(言語技術)を教えてもらっているからだと知り、腑に落ちた。言語は違っても、いわばOSのような共通プラットフォームがあることを知った」(星野氏)。
言語技術を取り入れはじめた
教育現場
「質問ありますか? と言われる前に質問しましょう」――。9月の3連休初日、全国から集まった中学・高校教師たちに対し、「主語が抜けています」「理由は?」などと、鋭い言葉を畳みかける。発言の主は、つくば言語技術教育研究所所長の三森ゆりか氏だ。40年近くにわたって、「言語技術」を教えてきた。
言語技術とは、「読む・書く・聞く・話す・考える」といった「言語を操るための全ての技術の総称」(三森氏)であり、「古代ギリシアで開始され、言語が異なっても数学のカリキュラムの組み立てや解き方が共有されているのと同じ」(同)というものだ。教師たちは、合計5日間、この言語技術について学び、最後は生徒に教えるための模擬授業を行ってプログラムを修了する。