2012年、中等部から言語技術教育を取り入れた森村学園(横浜市緑区)では、現在は幼稚園、初等部でも導入している。米スリーエム社に勤務していた松本茂理事長は「私自身、英語そのものではなく、議論の進め方などにおいて外国人とコミュニケーションをとるときに戸惑うことがあった。言語技術を学べば、外国人と高度なコミュニケーションがとれるようになるだけでなく、起案書など文章を書く際にも役立つ」と話す。卒業時の高校3年生からは「自分の意見をまとめる力がついた」「文章を書くことが苦にならなくなった」という声が上がっている。
森村学園で言語技術教育推進センター長を務める林宏之副校長は「言語技術教育を主体的に取り入れると共に日本が育んできた表現文化と併存させ、場に応じて意識的に両者を使い分けることが大事であり、そのための国語教育改革が求められる」と指摘する。
ビジネスシーンでも
必須になる言語化
ソニー・FeliCa事業部チーフソフトウェアエンジニアの栗田太郎氏は「プログラミングにおいても言語技術が有効」だと話す。というのも、日常使用する言語と、プログラミング言語の間にはギャップがあるからだ。コンピューターは、人間のように意図を汲み取ってくれない。例えば、「朝9時から10時までコーヒーまたは、紅茶を100円引きにする」という仕様をプログラミング言語に落とし込もうとすれば、「それはコーヒー、紅茶どちらか、両方か?」「10時までは、9時59分までか? 10時00分までか?」など、厳密に定義する必要がある。
「何がしたいのかを、顧客のビジネス領域に関する知識を得ながら理解するために問いを繰り返すことで、厳密な仕様書を書くことができる。これは、言語技術教育で行われる『問答ゲーム』そのものだ」(同)。
JR東日本では、前出のつくば言語技術教育研究所と連携して「ことばの力インストラクター」を社内で養成している。自らも言語技術教育を受講した運輸車両部輸送品質改革グループの宗形則彦氏によれば「列車運行における指令員、乗務員間などでの『コミュニケーション・エラー』防止」が導入の狙いだ。導入後の効果としては、関係者間で情報を共有する際に「状況説明が長くなりがちだったが、結論から伝えられるようになった」(宗形氏)。
味の素・元専務取締役で、米国で現地工場長の経験を有し、7年間以上も米国人を直接マネージメントした経験のある五十嵐弘司氏は、「米国人とのコミュニケーションで重要なのは、「自分が何を言いたいかを明確にすること。そうでないとすぐに、『What's that?』という返事が返ってくる。特に現場のオペレーターに対しては、はっきり指示を出さなければならない」と話す。「なぜその指示を出したのか?」「なぜその仕事をする必要があるのか?」を明確に「説明=言語化」する必要があるということだ。