連日繰り広げられる球児たちの熱戦に感動を与えられている人は多いだろう。第104回全国高校野球選手権大会は8月6日から開幕し、夏の甲子園球場を舞台に49代表校の頂点を目指す戦いが始まった。
その中において大会4日目(8月10日)の第4試合は異質な形で注目を集めた。2年連続30度目出場の県立岐阜商業(岐阜)と2004年春4強の実績がありながら夏は大会初出場の社(兵庫)の1回戦である。
県岐阜商は新型コロナウイルスの集団感染により登録メンバー18人中10人を入れ替え、初戦に臨んでいた。この日の先発メンバーで主力選手の出場はわずか4人だけで、そのうち3年生は2人。あとの5人は控え選手と急遽メンバー入りのため地元の岐阜から招集され、チーム合流から2日間しか練習していない1、2年生だった。
いくら甲子園常連校の県岐阜商とはいえ、明らかな急造チームでは公立の雄・社を相手にまともな勝負ができるはずはなかった。試合は1―10で大敗。それでもグラウンドに立った県岐阜商ナインは懸命に戦った。
清々しかった選手たちの表情
主力との入れ替えのためメンバー入りし、右翼手として先発出場した2年生の高橋一瑛選手は2回の甲子園初打席で左前打を放ち、7回にはダイビングキャッチのビッグプレーも見せてスタンドから万雷のように大きな拍手を浴びた。
「絶対に先輩の役に立って、チャンスもつかもうと思った。3年生の思いも受け止めて、春の甲子園に戻ってきたい」
敗れはしたが、試合後のオンライン会見でこのように述べた高橋選手の表情は清々しく充実し切っていた。今夏が終わって県岐阜商新チームの主力になる2年生、あるいは1年生選手にとって、この日得た聖地出場の経験は決して無駄にはならない。
9点もの大量リードを奪われて迎えた8回表には8番打者で2年生の高井咲来選手が左越え二塁打で出塁。代打の2年生・磯野真夢選手の一ゴロで三進し、1年生のリードオフマン・加納朋季選手の三ゴロの間に本塁生還を果たした。県岐阜商側のスコアボードに表示された唯一の「1」には間違いなく、1得点以上の重みがあった。