平潭までの高速鉄道は、現在のところ福州と平潭の間を毎日10往復程度が走り、中には北京・上海・深圳と結ぶ便もある(最新の運行状況は中国国鉄予約サイト『中国鉄路12306』で分かる)。海壇島に渡るための平潭海峡大橋は全長16.34キロメートルで、年間200日以上強風が吹いて海流が速く、強固な岩盤もあって橋脚の設置が困難であったものの、最新の技術と臨機応変の工夫を以て完成させ、今や技術陣のトンネル着工に向けた意気は高く、地震発生帯を避けつつの設計図も完成しているのだという。
平潭から台湾・新竹市の南寮に至るトンネルは、道路・電線用と合わせた計3本が設けられる予定であり、完成後は130キロメートル超・世界最長の海底トンネルが中台の関係を緊密にするという(『VOA』21年3月10日「中国路網跨到台湾 京台高鉄将両岸通向何処?」、『網易』21年12月4日「2035年坐高鉄去台湾? 基建狂魔再出大招」、『中国時報』18年9月24日「京台高鉄海底隧道 将従平潭到新竹」)。
台北への高速鉄道計画に沸き立つ中国
中国共産党創建100周年を迎え、次の100年ならびに2049年の建国100周年を見据えた21年3月、全国人民代表大会は第14次5カ年計画ならびに「2035年長期目標」を大々的に掲げ、中国の人々はその実現に向けて大いに鼓舞・動員されつつある。
35年とはどのような意味を持つのか。この年は第16次5カ年計画の満了年にあたり、「社会主義現代化強国」に躍り出た中国が技術面で世界を牽引するほか、一人あたりの国内総生産(GDP)はイタリア・韓国並みの3万ドルを実現し、中レベルの先進国となることを謳っている。
また習近平は、35年の時点で82歳である。もし仮に習近平が毛沢東と並ぶ終身の「領袖」となり、自分が存命のうちに「中華民族の偉大な復興」に相応しい業績=台湾統一と最先端の強国化を同時に誇示するとすれば、35年はそのタイミングにふさわしい。
もっとも、現在の中国のGDP水準は一人あたり1万ドル強である。「2035年長期目標」を実現するためには毎年7〜8%の成長が必要であるところ、昨今の疫病禍や西側諸国との対立ゆえ、その実現可能性には疑問符が付きまとう。
このため、第14次5カ年計画では対外経済関係の比重を下げ、自国内でのイノベーション・強力な国内市場の形成を強調しており、それによって世界が中国の経済的・技術的魅力を無視できないようにするという性格が強い。(今村弘子「第14次5か年計画と2035年長期目標から中国経済を考える」『季刊・国際貿易と投資』124号)
そこで中国政府は、持続的な経済発展におけるボトルネックを緩和するべく、35年までの交通網建設の全体像を描いた「国家綜合立体交通網計画(原語では規画)綱要」を発表した。この中では、「都市内1時間通勤、都市間2時間到達、全国主要都市間3時間到達」を謳う「全国123出行(お出かけ)交通圏」実現のため、高速鉄道は総延長7万キロメートルまで整備することとされ、台湾への高速鉄道は、「北京・天津・河北(雄安新区)=広東・香港・マカオ主軸」の支線として大々的に掲げられた。
こうして党・政府によって、35年までに高速鉄道が台北まで開通するというメッセージが発せられた結果、中国国内では言わば「統一」ブームが加熱しつつある。
昨年9月、愛国主義的シンガーソングライターである孟煦東 (もう・くとう) が「2035去台湾 (2035年、台湾に行こう)」を発表し、中国の人々が高速鉄道に乗って澎湖島・阿里山・日月潭といった名所をめぐる一方、台湾の人々が高速鉄道に乗って北京に向かい、「日々心の中で慕ってきた天安門の日の出を眺め、万里の長城を眺める」「山々を赤く染めるほどの紅旗の波、そして偉大な復興を遂げる中国の夢を眺める」情景を唱ったところ、一度聞いたら忘れられない中国の民謡がかった (?) 節回しと相まって、爆発的なヒットを巻き起こしている。