堕胎禁止州で映画撮影を止めよう
知事の攻撃はまだまだ続く。8月に入ると今度は映画の都、ハリウッドに対し「堕胎禁止法を持つ州でのロケなどのビジネスを廃止せよ」と訴えた。その見返りとして、税制優遇などで2030年まで総額16億5000万ドルのインセンティブを提供する、という。対象となるのは映画、映像配信、テレビ番組などの制作を行う企業だ。
確かにディズニーを始め、ネットフリックスなどの映像大手は社員に対し堕胎のために州外に移動する旅費を負担する、と表明している。しかしそうした州でのビジネス禁止となると話は別だ。例えば2019年に堕胎禁止法が提案されたジョージア州では、当初多くの映像会社が「法案が成立すれば同州から撤退する」などと表明していたが、その後は尻窄みとなり現在でもジョージア州内だけで映像関連の雇用者は10万人以上存在する、という。
ニューサム知事の狙いは没落しつつあるハリウッドを守り、カリフォルニアと映像産業の関係を維持させることにあるが、今回は「あなた方はこれまでになく女性の権利のための責任を有している」と強い言葉で訴えている。
企業誘致に成功しているのは保守系の州
ただし州による税制優遇や土地リースにより企業誘致に成功しているのはむしろ保守系の州の方だ。日本企業でも日産自動車がテネシーに、トヨタ自動車がテキサスにそれぞれ本社機能を移動させ、それに伴い多くの住民が同州から流出した。
元々土地が高く住宅価格が高騰していることもあり、コロナで在宅勤務が広がるとカリフォルニアからの人口流出には拍車がかかり、21年だけで28万人の人口減となった。一時は4000万人を超えていた人口は39万5000人となり、下院議員の議席数を1つ失うことにもつながった。
過激なニューサム発言に対し、「干ばつで取水制限のあるカリフォルニアから、水の豊かな我が州へ」と住民誘致に動く州も出てきた。住民誘致合戦は今後も続きそうだ。
トランプ人気が復活していることもあり、全体としてはニューサム知事の旗色は悪い。「レッドステート(保守系が強い州)に噛みつく男」として有名になったが、次期大統領選のオッズではデサンティス氏が現状では有利だ。もしデサンティス氏あるいはトランプ氏が次期大統領に就任することになれば、以前からくすぶっていたカリフォルニア独立運動に再び火がつくかもしれない。